
バイデン米大統領は7月15日、就任後初めてサウジアラビアを訪問し、西部ジッタで同国の事実上の最高権力者ムハンマド皇太子と会談した。米国とサウジは共同声明で、イランによる核兵器保有を阻止することなどで合意したと発表した。米国は、対イラン包囲網の強化を目指す。(エルサレム・森田貴裕)
両首脳は共同声明で、安定し繁栄する中東のための共通のビジョンを前進させることを目的とした今後数十年にわたる戦略的パートナーシップを発表した。2国間で結ばれた協定では、エネルギー安全保障から宇宙開発まで、さまざまな分野で協力が強調されている。
安全保障と防衛の分野でバイデン氏は、国外の脅威からサウジの領土と国民を守るため支援すると改めて約束。両国は、イランによる他国へ内政干渉や代理武装勢力へのテロ支援を阻止し、イランの核兵器保有を防ぐことで合意した。
バイデン大統領のサウジ訪問に合わせ、サウジの民間航空当局は15日、声明で、イスラエルを含むすべての民間航空会社に領空を開放すると発表した。バイデン氏は、声明で「サウジの決定はイスラエルのサウジを含む中東地域へのさらなる統合を促す」と歓迎。「長い間議論されてきたが、ついに現実となった」と述べた。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、「この決定は大統領の外交の成果であり、中東地域の平和と安定への道を開き、イスラエルの安全と繁栄にもつながる」と述べた。
アラブの盟主ともされるサウジとイスラエルは長年敵対関係にあったが、イラン封じ込めを共通目標に、近年はますます接近し、関係正常化への動きを進めている。イスラエルのラピド首相は声明を出し、「サウジと米国との地道な秘密外交によって朗報がもたらされた。サウジ領空の開放についてサウジの指導者に感謝したい。これはまだ最初のステップにすぎない」と述べた。
これまでイスラエル発着の航空便の大半は、国交のないサウジ領空を迂回(うかい)してきた。サウジ領空の開放を受けて、イスラエルのエルアル航空は、東京とオーストラリアへの直行便の開始に向けて準備すると発表した。エルアル航空によると、テルアビブからメルボルンまでの飛行時間は2時間以上短縮され、15時間になるという。東京への直行便は2020年3月に運航が開始される予定だったが、新型コロナウイルスのパンデミックにより棚上げされていた。今後、東京への直行便が始まると、イスラエルと日本の交流がさらに加速する。
元イスラエル上級外交官でイスラエル地域外交政策研究所研究員のミハエル・ハラリ氏は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「サウジ領空の開放は、イスラエルとサウジの関係を強化するためのゆっくりではあるが非常に重要なステップ」と述べ、経済的要因よりも政治的要因が強いと付け加えた。
米国のニュースサイト「アクシオス」によれば、サウジとエジプトの間で領有権を争っていた紅海にある二つの島をサウジに引き渡す合意において、イスラエルの承認が必要で、米仲介によって7月14日にイスラエルが承認。これでイスラエル航空機のサウジ領空使用が許可されたという。
一方、サウジのアルアティーク国連副大使は26日、国連安全保障理事会のイスラエルとパレスチナの紛争に関する月例会議で、「すべての航空会社にサウジ領空の使用を許可するという決定は、国際的な義務に沿ったもの」と述べ、イスラエルとの国交正常化へ向けた一歩ではないとしている。
イスラエルは米国の仲介でアラブ諸国と国交正常化を進めているが、サウジは、02年に自国が提案しアラブ連盟が採択した「アラブ和平イニシアチブ」に基づき、イスラエルとの国交正常化はパレスチナとイスラエルの紛争が解決された後にのみ行うことができるとしている。
14年以降中断されているイスラエルとパレスチナの和平交渉の再開に向けては進展が見られず、サウジとイスラエルの国交正常化までの道のりはまだ長い。