「米が防衛明言」台湾での報道

「一つの中国政策」変わらず 「新・曖昧戦略」とみる論考も

日米首脳会談、記者会見に臨むバイデン米大統領=5月23日、東京(AFP時事)

訪日したバイデン米大統領が岸田文雄首相との日米首脳会談後、記者会見で「米国は台湾有事が起きた場合に軍事的に関与するのか」と問われ、「イエス」と即答した。さらに、「関与するのですね」と念を押されたバイデン氏が「それがわれわれの約束だ」と発言したことを受け、台湾メディアは「米国が台湾防衛を明言」と大きく報じたのである。しかし、同日ホワイトハウスは「米国の『一つの中国政策』に変更はない」と、バイデン氏の発言を修正する声明を発表した。これを受け、バイデン氏の発言は「失言」だったと報じられたが、果たして真実はどうか。(台北・早川友久)

まず、バイデン発言の真意を測る前に、台湾をめぐる米中の主張の差異を整理してみたい。

注目すべきは、米国の「一つの中国政策(One China policy)」と、中国が主張する「一つの中国原則(One China principle)」は全く別物だということである。

中国による「一つの中国原則」とは「世界で中国はただ一つ」、「台湾は中国の不可分の領土の一部」、「中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府」と大きく三つの内容が含まれている。中国は国交を結ぼうとする国々に対し、この「一つの中国原則」の内容すべてを「承認」するように迫った。

しかし、「台湾が中国の不可分の領土の一部」という点については、例えば1972年に中国と国交を樹立した日本は「日中共同声明」で、中国の立場を「十分理解し、尊重」するだけに留め、決して承認はしておらず、米国も79年の国交樹立時には「acknowledge(理解する)」として、中国による台湾領有を認めていない。

台湾で2016年に、中国と融和的でない民進党の蔡英文政権が発足すると、中国は台湾の数少ない国交国を奪う戦略を進めた。台湾が外交関係を有する国は南太平洋や南米の、経済的支援を必要とする国が多く、そこに中国が「札束外交」を展開したが、経済的支援と引き換えに迫ったのが「一つの中国原則」の受け入れであった。

一方で、米国の「一つの中国政策」とは、簡潔に言えば米中が国交樹立後に結んだ三つのコミュニケと「台湾関係法」、「六つの保証」で定められた内容に則(のっと)って進められる政策である。「台湾関係法」とは、米台断交の際に米国が国内法として制定し、断交後も台湾を「国家に準じる」存在として扱うとともに、米国に対して自衛のための武器を供給することを保障した法律であり、「六つの保証」とは、台湾への武器売却を無期限に続ける意向などを含むなど、「台湾関係法」の内容を裏打ちするものと言える。

つまり、米国の「一つの中国政策」とは、中国は世界でただ一つであって、それは中華人民共和国であり、同時に中国を代表する唯一の合法政府であることは認めるが、台湾が中華人民共和国の一部であるという主張は認めながらも受け入れない、というものだ。その一方で、台湾に対しては自衛のための武器を、終了日を決めずに供給し続ける、という立場である。米中の主張に大きな隔たりがある中で「落とし所」を探ろうと双方が模索した結果が、台湾問題という「グレーゾーン」であるため、曖昧模糊とした印象は否めない。

さらに、米国はこれまで台湾と中国双方に対して、仮に台湾有事となった場合に米国が軍事的に関与するかを明言しない「曖昧戦略」を取ってきた。しかし、今や台湾は、中国とは明らかに別個の存在であり、事実上の独立国家であるとともに、国際社会における認識もそうなっている。他方で、ロシアによるウクライナ侵攻が即座に台湾有事を連想させたように、台湾有事への関心はますます高まるばかりである。

このような国際情勢の変化の下、バイデン大統領の「失言」は、米国の対台湾政策の転換を明言せずに示唆するための「意図された失言」なのではないかとみている。実際、台湾においては、米国が失言なのか真意なのかを明言しない「新・曖昧戦略」ではないかという論考もあった。米国は、「真意」と「失言」を巧みに織り交ぜて、中国を牽制(けんせい)しつつも刺激しない政策転換を図っているとみてよいだろう。