バイデン米政権は先月末、トランスジェンダーの未成年者への「性別適合治療」を支持する文書を発表した。しかし、同治療については、科学的根拠に欠ける上に不妊をもたらすなどの問題が指摘され、懸念が高まっている。ジェンダーイデオロギーを推し進める政権に批判の声が上がっている。(ワシントン・山崎洋介)
「トランスジェンダーの子供の親にとって、子供のアイデンティティーを肯定することは、子供の安全と健康を保つためにできる最も強力なことの一つだ」
バイデン大統領は「国際トランスジェンダー認知の日」の先月31日、ビデオメッセージで、子供たちの「性自認」を受け入れるよう親に求めた。
その中で、共和党の強い州で子供への性別適合治療を禁止する州法が成立していることなどを念頭に、「反トランスジェンダーの州法は間違っている」と批判。その上で「政権はこれらすべての憎悪に満ちた法案からあなた方を擁護する」と対決姿勢を鮮明にした。
また厚生省が同日発表した文書では、「青少年への早期の性別適合治療は健康と幸福のため必要不可欠なものだ」と主張。トランスジェンダーの青年のための適切な治療法の例として、第2次性徴遮断薬やホルモン療法のほか、「典型的な男性の胸の形を作ったり、乳房を増強したりする『上部』の手術」や「生殖器への『下部』の手術」のような性転換手術を挙げた。
外見上の特徴が自分の性自認と一致するのを助ける治療法とされる性別適合治療だが、一方で精神的健康の改善につながる証拠が乏しい上に、病気のリスクを高め、不妊をもたらすなどの問題が指摘され、懸念が広がっている。南部アーカンソー州は昨年4月、「思春期の子供を実験から守る」として、米国の州で初めて18歳未満への性別適合治療を禁止する法律を成立させた。米メディアによると20近い州で同様の法案が提出されている。
こうした懸念には、データの裏付けがある。例えば、スウェーデンで行われた広範な追跡調査では、性別適合手術から10~15年後に、手術を受けた人の自殺率は同年代の人たちの約20倍だった。
これに加えて、子供の頃の性的違和は、成長するにつれて自然に解決することが多い。臨床医や研究者による国際的な非営利団体「証拠に基づいたジェンダー医療のための社会」によると、小児期に発症した性別違和については、61~98%が思春期に生物学的性別が自らの性だと認識する。
こうした事実にもかかわらず、バイデン政権はジェンダーイデオロギーの推進に躍起となっている。司法省は先月31日、未成年者が性別適合治療を受けられないようにすれば、公民権法に違反する可能性があると警告する書簡を各州の司法長官に送った。
子供に対する性別適合治療の問題を扱った『不可逆的なダメージ』の著書であるジャーナリストのアビゲイル・シュライアー氏は、性別適合治療を支持するバイデン政権について、「多くの欧州諸国(フランス、英国、スウェーデン、フィンランド)が、治療のメリットを証明するのに『失敗した』10年間の事実を調べた後、こうした介入から手を引いている。これと全く同じ時、バイデン政権はこのばかげた立場を維持している」と非難した。
性転換に後悔している人たちを支援するウェブサイト「セックス・チェンジ・リグレット」を運営するウォルト・ヘイヤー氏は、FOXニュースの番組で、バイデン政権は「制度的な児童虐待を促進している。それは子供たちや家族、社会を破壊する」と批判。過去10年で1万件以上の相談のメールが寄せられたとして、「脱移行(性転換後に元の性別に戻ること)は、性別移行とほとんど同じくらい広がってきている。バイデン政権はこのことから教訓を得るべきだ」と述べ、性別適合治療に対する支持を見直すよう訴えた。