米国の教育現場で広がる過激なトランスジェンダー擁護の動きに対し、保護者の反発が強まっている。各地で起きている保護者の抗議運動の中で、特に注目を集めているのが南部バージニア州ラウドン郡だ。
同郡教育委員会がトランスジェンダー生徒に自認する性別の施設(トイレや更衣室、シャワーなど)利用やスポーツ競技参加を認める方針を提案したところ、子供のプライバシーや安全が損なわれるとの懸念が噴出。教育委員会が今年6月に開いた公聴会には、保護者ら数百人が詰め掛け、激しく抗議したため、会合は途中で中止になった。
この時、会場で大声を上げたスコット・スミスさんという男性が警官に逮捕された。公聴会で逮捕者が出たことをリベラルな大手メディアが否定的に報じたことで、保護者が教育関係者を脅迫しているとの印象がつくり上げられてしまった。各地で抗議活動を繰り広げる保護者たちはまるでテロリストのように扱われ、スミスさんはその象徴的存在になってしまったのだ。
ところが、スミスさんをめぐり衝撃的な事実が発覚する。地元高校に通うスミスさんの娘が同年5月に、学校の女子トイレでスカートをはいて女装していた男子生徒から性的暴行を受けていたのだ。この事実を最初に報じた保守系ニュースサイト「デイリー・ワイヤー」によると、学校側はこの暴行事件を学校内で処理しようとしたという。
スミスさんが公聴会に参加したのは、娘が暴行された事件に対する教育委員会の見解や対応を知りたいと思ったからだ。ところが、教育長の口から耳を疑うような発言が飛び出す。
「私の知る限り、トイレで暴行が起きたという記録はない」
「他の生徒を襲うトランスジェンダー生徒は存在しない」
暴行事件の存在を完全に無視したのだ。その後、スミスさんは教育委員会の提案に賛成する女性活動家と口論になって逮捕されてしまうのだが、この活動家はスミスさんの娘が性的暴行を受けた事実を否定した上で、娘に精神的問題があると侮辱した。頭に血が上ったスミスさんは、「くそったれ」と怒鳴りつけてしまったのだ。
スミスさんの娘を襲った男子生徒は、転校先の別の高校でも女子生徒に猥褻(わいせつ)行為を働いていた。この生徒はもはや性犯罪の常習者と言っていい。
生徒に自認する性別のトイレや更衣室の利用を認めれば、さらなる被害者を生む恐れがある。だが、教育委員会はスミスさんの娘の性的暴行事件が公になる前に提案を承認してしまった。
ラウドン郡ではまた、キリスト教徒の体育教師が別の公聴会で、「男子が女子に、女子が男子になれるということを私は認めない。それは子供に嘘(うそ)をつくことであり、虐待だ」と訴えたところ、停職処分になった。裁判を通じて処分は撤回されたが、性的少数者(LGBT)擁護に異論は一切許さないという現代米国社会の風潮を象徴する出来事だ。
また、南部ジョージア州ディケーターの小学校では2017年に、5歳の女子児童が女子トイレで男子児童から性的暴行を受ける事件が起きている。男子児童は「ジェンダーフルイド(流動的な性自認)」として女子トイレの使用が認められていた。被害児童の母親によると、男子児童は教室からトイレに向かう女子児童の後をつけ、二人きりの状況で襲ったという。
母親が被害を報告した後も、学校側はトイレ使用に関する方針を改めなかったため、母親は娘の安全を確保できないと判断し、娘を退学させている。
(編集委員・早川俊行)