
イラン戦争から距離を置く姿勢を見せる中国だが、裏ではイランの軍事能力を支えてきた実態が明らかになっている。
3月初旬、米イスラエル軍の攻撃開始直後に、制裁対象のイラン国営海運会社に属する2隻の船が、中国広東省・高欄港を出港した。ミサイル関連物資を積んでイランに向かったとみられる。ワシントン・ポスト紙が船舶追跡データと衛星画像を分析して報じた。今年に入ってすでに十数隻のイラン船が同港を訪れているという。
しかし、中国の関与はこれだけではない。先月公表された米議会の資料によれば、中国製衛星による標的情報の提供に加え、民生品を装ったデュアルユース(軍民両用)品が継続的にイランに流入。さらに攻撃型ドローンや対艦巡航ミサイルが販売された可能性があるという。
停戦交渉を前進させたいトランプ氏は中国のイランへの支援を断ち切る考えだ。同氏は、今月11日に中国がイランへの携帯式対空ミサイル供与を準備していると報じられていることについて、「中国は重大な問題を抱えることになる」と警告。習氏に書簡を送り、同意を得たと主張する。
トランプ氏が強気の構えを見せる背景には、中国のエネルギー安全保障の脆弱(ぜいじゃく)性がある。この弱点を踏まえ、同氏は中国への締め付けを強めているとみられる。中国は中東産原油への依存度が高く、輸入原油の4割以上がホルムズ海峡を通過する。米国は今年1月、中国と関係が深かった南米の産油国ベネズエラに軍事行動を行い、親米政権を樹立させた。
今回、イランがホルムズ海峡を事実上封鎖し、米軍も対抗措置として海上封鎖に踏み切ったことで、中国の原油調達は直撃を受けている。封鎖が長引けばエネルギー安全保障が揺らぐため、15日にはイランに対し、ホルムズ海峡の通航正常化を初めて要請。王毅共産党政治局員兼外相はアラグチ外相に「海上の正常な航行は国際社会の願いだ」と伝え、圧力をかけた。
こうした問題は、台湾有事の際にも大きな意味を持つ。仮にイランが西側寄りに転じ、中東の主導権が米国側に戻れば、中国は経済制裁で原油を確保できなくなる。そうなれば、台湾有事で長期戦を遂行するための”持久力“が大きく損なわれる。
一方で、中国はイラン経済の生命線でもある。中国向けの石油収入はイラン政府予算の約45%を占め、その一部は地域で活動する代理勢力の資金源となってきた。こうした資金の流れが中東の不安定化を招き、米国が中東から容易に撤退できない要因となっている。
紅海では、2023年末からイラン支援のフーシ派が商船攻撃を開始し、航行が混乱した。米軍は空母打撃群の展開や迎撃ミサイルの大量消費を強いられ、中国は関与を避ける一方、結果として米国の負担だけが増す構図となっている。
今回のトランプ政権によるイランへの軍事作戦は、こうした悪循環を断ち切るためだとの指摘がある。米ハドソン研究所のジネブ・リブア研究員は論考で、「米国がイラン対応に費やす1年は、そのまま中国が太平洋で影響力を拡大させる1年になる。トランプ政権は、そのために払う代償がもはや見合わないと判断した」と述べた。イランの脅威を取り除くことで、インド太平洋に資源を振り向けたい意図があるとしている。
ただ、米国の思惑通りに事が運ぶかは不透明だ。イラン攻撃により、巡航ミサイル「トマホーク」が在庫不足に陥ることも懸念される。イランとの戦争が長引けば、台湾有事などインド太平洋地域での対中抑止能力が低下する恐れもある。
イラン情勢の行方次第で、今後の米中関係の力学は大きく変わる。来月中国で予定されている米中首脳会談にも、その影響が及びそうだ。
(外報部・山崎洋介)
【連載】イラン戦争と変わりゆく世界(1)核放棄へ圧力強める米
【連載】イラン戦争と変わりゆく世界(2)同盟の危機、欧州自立に現実味






