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トランプ大統領のイラン攻撃と日本への影響

戦争学研究家 上岡龍次

イラン・イラク戦争(1980~1988年)開戦28周年を記念して行われたパレードで更新するイスラム革命防衛隊の兵士たち(UPI)
イラン・イラク戦争(1980~1988年)開戦28周年を記念して行われたパレードで更新するイスラム革命防衛隊の兵士たち(UPI)

交渉と攻撃準備

 イランはパフラヴィー朝だったが1978年にイスラム教シーア派の法学者を中心とした革命を成功させた。イランの政権を奪取したイスラム政権はイラン正規軍とイラン国民の反乱を恐れて宗教組織の私兵であるイスラム革命防衛隊を創設した。

 イスラム政権はイスラム革命防衛隊を投入して国内で革命を維持。さらに国外にイスラム革命防衛隊を投入して革命の輸出を行った。これで中東はイスラム教スンナ派とシーア派の代理戦争が今も継続。

 イスラム政権は国内でイラン国民を恐怖で支配してきたが、2025年にアメリカのトランプ大統領がステルス爆撃機を投入してイスラム革命防衛隊関係施設を空爆。これでイスラム革命防衛隊将官が死亡すると同時にイラン国民はイスラム革命防衛隊への恐怖が低下した。2026年に入るとイラン国内でイスラム政権はイラン国民の反体制デモを弾圧。

 イラン国民が、宗教組織が支配するイスラム政権を否定し抵抗を続けると、トランプ大統領はアメリカ軍を投入する動きを見せた。トランプ大統領は同時にイスラム政権と核開発で交渉を行い、交渉が決裂するとイランを攻撃することを匂わせている。

トランプ大統領の不可解な方針の背景

 トランプ大統領はイラン国内でイラン国民が反体制デモを行い、イスラム政権がイスラム革命防衛隊を投入してイラン国民を殺害しているので怒った。そこでトランプ大統領はアメリカ海軍を中心とした戦力を中東に移動させている。

 だがトランプ大統領はイスラム政権がイラン国民を殺害していると知りながら、同時にイスラム政権と核開発を巡り協議を開始した。見た目はイラン国民を見捨てる動きに見えるが軍事的には時間稼ぎと思われる。何故なら軍隊の移動は簡単ではない。このためイスラム政権は高濃縮ウランを求めているが、トランプ大統領は低レベルの濃縮ウランならば受け入れることを匂わせた程度。

 これはイランとアメリカの核協議が最初から平行線であり合意しないことを示唆している。明らかにトランプ大統領は中東に必要な戦力が集中するまでの時間稼ぎをしている。これを察知したイスラム政権は、アメリカと協議を継続すると同時にイスラム革命防衛隊の戦力を戦闘態勢に置いている。

■イラン攻撃、指導者個人を標的の可能性 政権交代も選択肢=米当局者
https://jp.reuters.com/world/us/E2XUVHWM2RNJPHW7GUURGA23FU-2026-02-20/

■トランプ氏の対イラン攻撃示唆、核合意迫る戦略が裏目に出る恐れ
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-02-21/TAT8P6KJH6V400?srnd=jp-international

 イランとアメリカの核協議が進行する中でアメリカはイスラム政権の指導者殺害を匂わせている。さらに政権交代も選択肢に入れ、イランを革命前に王政復古すると暗に警告している。一連の流れを見ると、トランプ大統領は制限戦争と全面戦争の二段構えだと推測できる。

【戦争目的】
・全面戦争(All-out war) :交戦国の政権を否定する
・限定戦争(Limited war) :戦争目的が限定されている戦闘と交渉
・制限戦争(Controlled war):政治が軍事に介入する

【戦争の傾向】
・全面戦争:総力戦になりやすい
・限定戦争:総力戦が困難
・制限戦争:軍事的不合理を克服して勝利を求めるほど総力戦に近くなる

【戦争の結果】
・全面戦争:勝利者がある戦争(敵国の滅亡)
・限定戦争:勝利者がある戦争(政治の延長としての戦争)
・制限戦争:勝利者なき戦争

 人類の戦争を3000年の戦争史から見ると、戦争学では全面戦争・限定戦争・制限戦争に区分している。全面戦争は部族間抗争や国内戦であり、限定戦争は政治の延長としての戦争。この限定戦争は人類の戦争で最も多く基本的な戦争。問題なのはアメリカが第二次世界大戦後から使う制限戦争で、最も少ない戦争形態。

 第二次世界大戦までのアメリカは全面戦争を敵国ドイツ・日本に適用した。これが原因で交戦国のドイツと日本は苛烈に戦争した。さらに敵国民を直接殺害することも正義としたことで第二次世界大戦は凄惨になった。アメリカは全面戦争に反省したらしく、第二次世界大戦後の朝鮮戦争・ベトナム戦争では制限戦争を行っている。だがアメリカが選んだ制限戦争は致命的な欠点があり、制限戦争は交戦国の政治的な譲歩が目的であり敵軍撃破が目的ではない。このため軍事的合理性からかけ離れ、軍事作戦が政治から拘束を受けるので勝利できない。実際に朝鮮戦争・ベトナム戦争は勝てる戦争と言われたが勝利なき戦争に終わった。

トランプ大統領流の交渉術と時間稼ぎ

 これまでの流れを見ると、トランプ大統領はアメリカ軍の戦力が中東に集まるまで時間稼ぎをしたい。だから交渉決裂が明らかな核協議を同時進行。このためトランプ大統領は制限戦争でイスラム政権と交渉を行い政治的な譲歩を要求。これで成功したらイランのイスラム政権は維持されるがイラン国民の弾圧は続く。しかしイスラム政権は高濃縮ウランに固執するから譲歩できない。

 トランプ大統領は二隻目の空母が中東に移動するまで時間稼ぎをしているが、二隻目の空母が到着する予定の時期に攻撃することを匂わせている。トランプ大統領は意図的に攻撃を匂わせることでイスラム政権に譲歩を要求すると同時に王政復古を匂わせた。これは間接的な最後通牒だからイスラム政権とイスラム革命防衛隊には死刑宣告に相当する。

 トランプ大統領はイスラム政権に対して制限戦争でイスラム政権と交渉し、交渉決裂したら全面戦争でイランを攻撃する。これはトランプ大統領流の交渉術だろう。

イラク戦争以来の戦力と欠点

 中東に集まるアメリカ軍は2003年のイラク戦争以来の規模になった。だが中東に集まるのは二隻の空母打撃群とアメリカ空軍の戦力。ここには地上戦を行う戦力は確認されていない。これではイスラム政権とイスラム革命防衛隊を空爆できても土地を占領できないことは明白。戦闘は土地の占領で勝利し、戦争は敵国の首都を占領することで得られる。

【兵科の機能】
・歩兵:正面攻撃・占領機能
・騎兵:側面攻撃
・砲兵:正面防御

 兵科の機能から見ても占領機能を持つのは歩兵のみ。戦車・ミサイルなどは火力攻撃だから占領機能は持たない。ここが今回のアメリカ軍の致命的な欠点だ。アメリカ軍は圧倒的な火力攻撃をイラン国内に展開するイスラム革命防衛隊を攻撃できる。アメリカ軍の空爆が数カ月続くとイスラム政権施設・イスラム革命防衛隊は弱体化する。しかし占領できないから戦争は終わらない。

■Iran students stage first large anti-government protests since deadly crackdown
https://www.bbc.com/news/articles/c5yj2kzkrj0o

 私はトランプ大統領がイラン正規軍とイラン国民を地上部隊の代わりにすると推測する。イスラム政権はイラン正規軍を信用しないからイスラム革命防衛隊を創設した。イスラム革命防衛隊はイラン正規軍よりも優遇されており装備も良い。そんなイラン正規軍がイラン国民と共にアメリカ軍と連携すればイスラム政権・イスラム革命防衛隊を国内外で攻撃できる。今の段階では絵に描いた餅。だが成功すればイランは王政復古に至り、交渉中のウラン濃縮問題も解決する。

 イランが王政復古すれば親欧米派の国に変わり中東情勢が安定化する。これはイスラエルにも都合が良いから紅海とペルシャ湾までの広範囲がアメリカの庭に変わる。何よりもイランの友好国であるロシア・中国は外交基盤を根本から失うから軍事面でも打撃になる。
 ロシアはイランから輸入する武器が停止されウクライナとの戦争継続が危険になる。中国は一帯一路構想の緊要地形であるイランを失えばヨーロッパ・アフリカとの連携が切れる。さらに中国は中東から輸入する石油が減少する危険性もある。しかしロシア・中国共にイランを助けるための軍隊を派遣する能力はない。このためイスラム政権は単独でアメリカと戦争しなければならない。

3000年の戦争史では異例

 しかしアメリカもイスラム政権を攻撃するのは単独。これは3000年の戦争史から見ると異例の国際情勢。これまでは有志連合を組織したり同じ海洋国家イギリスと連携するのが常だった。だがトランプ大統領はアメリカ単独でイスラム政権を攻撃する姿勢を見せているから異例なのだ。

 基本的に時の強国が地域紛争に介入し有志連合を組織する。この時に強国から軍隊を派遣されたら軍隊を派遣するのが国際社会のマナーなのだ。しかしトランプ大統領は有志連合を組織しないし各国へ軍隊派遣要請もしていない。

 このため日本の政治には“今の段階では影響はない”。しかし石油などの海上交通路は一時的に遮断されるから経済面での影響はある。仮にトランプ大統領がイスラム政権を打倒しイランが王政復古するとトランプ大統領の一人勝ち。政治・経済・軍事の面でアメリカ単独の影響力を持つから、戦後の関税協議が影響を受けることは間違いない。

 何故ならトランプ大統領は中東を安定化させた英雄として認識され、イランを中心とした中東諸国からの影響が強くなる。そうなると中東諸国からの石油輸入に依存する国はトランプ大統領との交渉で譲歩する可能性が高い。この面で日本は影響から逃れられない。このため高市首相は関税でトランプ大統領に譲歩することは避けられないから、代替案を考えなければならない。もしくはアメリカからの武器購入を拡大することで譲歩の代わりにするだろう。

(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)

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