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イランとアメリカの選択が世界を変える

戦争学研究家 上岡龍次

反政府騒乱を受けて政府支持の集会がテヘランで開催され、米国とイスラエルへの反対を表明し、最高指導者ハメネイ氏への支持を示する参加者たち(2026年1月12日/UPI)
反政府騒乱を受けて政府支持の集会がテヘランで開催され、米国とイスラエルへの反対を表明し、最高指導者ハメネイ氏への支持を示する参加者たち(2026年1月12日/UPI)

交渉と戦争準備

 イランでイスラム政権に対するイラン国民の反体制派デモが発生した。イランのイスラム政権は国民を射殺することで反体制派デモを鎮圧しようとしているが、積極的に止める動きをしているのはアメリカだけになった。アメリカのトランプ大統領は中東に空母打撃群を派遣するだけでなく艦隊や防空ミサイルを追加配備している。

 イランとアメリカは戦争に備えた戦力移動だけでなく協議を行うことで平和的な解決も模索している。しかし双方の意見は合致せず双方が警告を発する状態になった。イランのイスラム政権は仮にアメリカが攻撃を行うとイスラエルを攻撃すると警告。これは中東全域の戦争になることを匂わせた。

時間稼ぎの協議

 イランでイスラム政権に対する反体制派デモが発生するとイラン国民が殺害されているとの報告が相次いだ。これに対してアメリカのトランプ大統領だけが軍隊を派遣してイラン国民を救おうと動いている。同時にイランとアメリカの戦争になるリスクがあるため、トルコ・アラブ首長国連邦・サウジアラビアなどの中東各国は、イランとアメリカの戦争を防ぐために外交努力を続けている。

■イラン外相「公正なら」米と協議も、防衛問題には難色
https://jp.reuters.com/world/security/MSU44622OJJNPIBETYSZW4AEP4-2026-01-30/

 しかしイランとアメリカの協議は、アメリカの戦力移動を行うための時間稼ぎだと思われる。トランプ大統領は中東に空母打撃群を派遣するだけではなく追加戦力も派遣している。その中には防空ミサイルと高高度迎撃ミサイルシステムが含まれていた。これは明らかにイランからの弾道ミサイルを迎撃することが目的だから、継続的な戦闘を前提にした追加戦力になる。同時に戦力を見せつけてイランのイスラム政権に政治的譲歩を求める制限戦争でもある。

・妥協案 :相手国に餌を与えて自国が譲歩する(受動的・等価交換)
・最後通牒:相手国が譲歩するならば自国が餌を与える(能動的・押し売り)

 仮にトランプ大統領が譲歩するならばイランに妥協案を提示する。だが現段階ではトランプ大統領が譲歩した形跡は見られない。このため現在進行中なのはイランに向けた最後通牒になる。これはイランのイスラム政権が譲歩するならばアメリカはイランに餌を与えるということだ。最後通牒の典型例は戦前のアメリカが日本に対して突きつけたハル・ノート。ハル・ノートを簡単に言えば、「餌を与えての譲歩の要求は妥協案であるが、譲歩すれば餌を与えるという条件は最後通牒である」。

 当時の日本はハル・ノートの内容に怒り日本から開戦した。おそらくイランに対して行われた協議も最後通牒のはず。しかしイランとアメリカの協議は反体制派デモだけではなくミサイル計画まで含まれていた。さらに交渉再開の要求の一つがミサイル計画の抑制。イランは当然だがアメリカからの要求を拒否した。

 トランプ大統領はイランと協議するが、イランが絶対に拒否する内容を持ち込むなら譲歩は存在しない。おそらく、イランと平和的な解決を求めて協議した既成事実を残し、反体制派デモへの弾圧を止めないイスラム政権を打倒するために交渉決裂を演出していると思われる。

アメリカ軍の戦力はアンバランス

 トランプ大統領は中東に戦力を移動させているが、端的に言えばアンバランスな戦力になっている。基本的に空母打撃群と航空戦力、そして防空ミサイルだけであり地上戦力はないに等しい。現段階では巡航ミサイル・航空戦力による空爆による火力投射が攻撃手段であり、防御手段として防空ミサイルを配置している。

■イランが対イスラエル攻撃を警告、米国の攻撃に身構え-緊張高まる
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-01-31/T9QNJDKGZAIQ00?srnd=jp-international

 イランのイスラム政権は、イスラエルを報復攻撃すると警告している。これは明らかにイランからイスラエルへ向けて弾道ミサイルを撃つことを意味している。これでは地上戦は発生せず、占領なき戦争に勝利はない。

【戦闘の5機能】
1:発見
2:拘束(火力攻撃・遠距離)
3:撹乱・制圧(火力攻撃・遠距離)
4:機動
5:打撃・占領(接近戦・近距離)

 戦術は土地を占領することで勝利を得、戦争は敵国を占領することで勝利を得る。これが現実だから、戦争学で使う戦闘の5機能から見ると巡航ミサイルなどの空爆は発見・拘束・撹乱で適用され、地上部隊が機動し敵軍を撃破するか敵首都を占領することで勝利を得る。

 これが3000年の戦争史から導き出された経験則なのに、中東に集まる戦力は火力投射だけ。アメリカは海洋国家であり、大陸に上陸しイラン首都まで進撃することは海洋国家の戦争ではない。海洋国家は海岸部で戦闘するのが基本であり、内陸に向けて進撃する時は大陸国家の同盟国が行うのが基本。

 このためトランプ大統領が期待している大陸国家の同盟国は、イラン正規軍か反体制派デモだと思われる。アメリカ軍がイスラム政権を攻撃して拘束・撹乱する間に、イラン正規軍がイスラム革命防衛隊に対して機動し攻撃することを望んでいることになる。

 イラン正規軍がイスラム革命防衛隊を攻撃するなら中東のアメリカ軍は火力投射としての機能を果たせる。さらに反体制派デモへの弾圧が止まりイスラム政権は排除され、王政復古が成功してイラン革命前に戻る。仮にこれがトランプ大統領のシナリオだとすれば、極めて危険な作戦になる。つまり、ハイリスク・ハイリターンな戦争。

 本来であれば複数の国がイスラム政権打倒とイラン国民の救出を掲げて中東に集結。そこにイラクからイランに向けて進撃する地上部隊が必要になる。今回は確認されていないからアメリカ単独の危険な戦争になり、最悪の場合はイスラエルだけではなく中東全域が戦争に巻き込まれる。

他に選択肢がない

 悲しいことにイラン国民をイスラム政権の独裁から解放するには、アメリカ単独の戦争しか残されていない。今の世界を見るとイラン国民を救うために軍隊を動かしているのはトランプ大統領だけだ。戦力が小さく稚拙な作戦だとしても、イスラム政権に弾圧されているイラン国民を救える最短距離にいるのはトランプ大統領だけだ。

(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)

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