
悪化するイラン情勢
イランは1925年からパフラヴィー朝の王政だったが1979年にイスラム教シーア派による革命で今のイラン・イスラム共和国に変わった。これまで宗教組織が政権を独占し国民を恐怖で支配したが、国民による宗教組織の政権に対する恐怖が低下した。始まりは経済政策の不満だと言われたが、国民の反体制派デモがイラン全土に拡大すると宗教組織の政権は革命防衛隊を用いた国民虐殺で対応している。
初期の段階ではオールドメディア・国連は宗教組織の政権が国民を虐殺していることを無視したが、アメリカのトランプ大統領は国民支援を公言し空母打撃群を中東に向かわせた。トランプ大統領に対して宗教組織の政権は全面戦争を匂わせて威嚇した。
全面戦争とは何か?
イランを統治する宗教組織の政権は、「ハメネイ師(国家最高指導者・イスラム教シーア派)に対するいかなる攻撃もイラン全体への全面戦争に等しい」と発言した。全面戦争(All-out war)の言葉は3000年の戦争史から見るとアメリカへの恫喝を超えた間接的宣戦布告になる。
■イラン大統領、米軍攻撃には「手厳しく反撃」と警告
https://jp.reuters.com/world/security/Q3F7BO45M5I7LJPXIDLV23BSG4-2026-01-18/
【戦争目的】
・全面戦争(All-out war) :交戦国の政権を否定する
・限定戦争(Limited war) :戦争目的が限定されている戦闘と交渉
・制限戦争(controlled war):政治が軍事に介入する
【戦争の結果】
・全面戦争:勝利者が有る戦争(敵国の滅亡)
・限定戦争:勝利者が有る戦争(政治の延長としての戦争)
・制限戦争:勝利者無き戦争
3000年の戦争史から人類は戦争を3区分している。全面戦争は古代の部族間抗争の世界であり敵部族を皆殺しにする世界。14世紀から21世紀で言えば国内戦が該当し、19世紀であればアメリカの南北戦争、20世紀のユーゴスラビア紛争、21世紀であればシリア内戦が該当する。
基本的に全面戦争は部族間抗争・国内戦に使われるが、20世紀の第二次世界大戦ではアメリカは全面戦争を敵国である日本とドイツに用いて戦争した過去がある。当時の日本とドイツは限定戦争だったが連合国側のアメリカだけが国家間の戦争に全面戦争を初めて持ち込んだ。
アメリカはカサブランカ会談(1934)で日本とドイツに対して全面戦争を提案した。これは人類史には初めてのことであり、交戦国の日本とドイツが無条件降伏するまで戦争する提案だった。国際政治は強国の論理で動くから当時の他の連合国はアメリカの提案に従った。だが国家に対する無条件降伏は人類史上初めてなので、連合国側から見ると敗戦国は行政・立法・司法を持たない無権限状態と認識した。この結果として敵国民を直接攻撃することが正義と見なされた。
アメリカの全面戦争の提案は実行されており、当時は審議中だった陸戦の法規慣例に関する条約(1907)・空戦に関する規則違反が実行された。それがハンブルク・ドレスデン・東京などの爆撃。さらには広島・長崎への原爆投下であり、戦争目的が国家の滅亡(敵国民の全ての権限を認めない)になった悪しき戦例である。
アメリカは反省したがイランは?
アメリカは第二次世界大戦で日本とドイツに対して全面戦争を実行し勝利した。だがアメリカも戦争に勝ったが全面戦争の間違いに気付いたようだ。アメリカは後の朝鮮戦争(1950-1953)とベトナム戦争(1955-1975)では、これも人類史上初めての制限戦争(controlled war)を実行した。だがアメリカは勝てる戦争と言われたが勝利なき戦争に至った。
アメリカは第二次世界大戦の全面戦争で勝利したが全面戦争の破壊力に恐怖したと思われる。アメリカは表向き反省していなくても全面戦争を忌避し以後の戦争は制限戦争を選んでおり軍事力の行使を制限することに終始している。
【制限戦争論:キッシンジャー(アメリカ)】
「交渉と戦闘は段階的に推進すべき。戦略の目的は敵政治意志の譲歩であって敵軍の撃破ではない」
アメリカが戦後から採用している制限戦争論は軍事的合理性からかけ離れている。何故なら軍事作戦が外交から干渉と拘束を受けると勝利できない。実際にアメリカは朝鮮戦争とベトナム戦争で勝利できなかった。
■トランプ氏「中東に大規模艦隊を派遣」、対イラン軍事攻撃を再び警告
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-01-23/T9BNQ9KIP3JF00?srnd=jp-international
トランプ大統領のイランに対する外交と軍事を見ると、イランに対してアメリカ海軍の空母打撃群をアピールしながら政治的意志の譲歩を求めている。しかもアメリカ軍の作戦域は中東に限定されている。トランプ大統領は明らかに制限戦争を採用しており、イランが譲歩すれば政権交代とイラン国民への弾圧停止ができると見ている。
それに対してイラン側はハメネイ師への攻撃を全面戦争と断言した。これは極めて攻撃的な意味を持っている。全面戦争は部族間抗争レベルだから敵部族・敵国を滅亡させるまで戦争する。イラン国民と宗教組織は別物なのに意図的に同一に変えて誤魔化している。つまり宗教組織の政権はイラン国民を自分たちの自殺に巻き込んだ全面戦争を行う覚悟だ。仮にイランが核弾頭を保有していれば核弾頭を使うだろう。
イラン政権の対策
イランを独裁政治で支配する宗教組織には2つの選択肢がある。一つはイスラム教シーア派の家族丸ごとイラン国外に逃亡する。国外逃亡するのはシーア派の家族と革命防衛隊の家族になり、隣国のパキスタンかイラクへ逃亡するだろう。トランプ大統領から見れば根本的な解決ではないが、イランを王政復古させてイラン国民を独裁政治から解放する。戦後は王政復古した親米イランと貿易を行い情勢が安定する中東の要にするだろう。
イランを独裁政治で支配する宗教組織の2つ目の選択は中東限定の全面戦争を実行する。イランの革命防衛隊は中距離弾道ミサイルとしてシャハブ3の派生機種を保有している。この中距離弾道ミサイルの射程は2000km前後であり2025年6月のイスラエルによるイラン攻撃でイランが報復として発射しイスラエルに着弾した。
現段階ではイランは欧米まで届く大陸間弾道ミサイルを保有していない。このためイランが全面戦争を実行しても攻撃されるのはイスラエルだけ。そして中東に展開するアメリカ軍基地になる。
これが原因でイランが全面戦争を公言しても欧米の危機感は低い。欧米から見れば対岸の火事であり、警戒しているのは海上交通路を遮断された時の経済的な損失だけ。このためヨーロッパはトランプ大統領が空母打撃群を用いて、イランを独裁政治で支配する宗教組織を撃破することだけを望んでいるはずだ。さらに中東に派遣された空母打撃群が短期間で海上交通路を復活させることだけが願いだ。これなら自国の経済的損失が少なくアメリカを用いて王政復古したイランと経済活動を再開させれば良い。
イランは欧米まで届く大陸間弾道ミサイルを持っていないのだから、ヨーロッパの政治家たちはアメリカに火中の栗を拾わせることを選んだと見るべきだ。ならば日本の政治家も表向きはアメリカを支援しながら戦後の王政復古したイランと貿易を行い利益を得ることを選ぶべきだ。
日本の対応策
ペルシャ湾が戦場になれば一時的だとしても海上交通路が遮断される。この場合の経済対策として法人税を期間限定だとしても廃止すべきだ。何故なら商品価格に法人税を回収するための価格が上乗せされているから、法人税を廃止すれば海上交通路封鎖に伴う価格高騰に対応できる。物流が混乱し海上輸送の価格が高騰すれば企業と国民生活を苦しめる。この対策のためには法人税の廃止は有効な一手になる。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)






