
トランプ米大統領が主導した和平合意によってイスラエルとイスラム組織ハマスの停戦が続く中、ハマス戦闘員による攻撃や人質の遺体の偽装などを理由に、イスラエル軍が10月28日夜、パレスチナ自治区ガザで大規模な空爆を実施した。ハマスは人質の遺体返還を遅らせ、ガザ地区の支配復活を目論(もくろ)んでいる。(エルサレム森田貴裕)
ガザ地区では、米国が仲介したイスラエルとハマスの停戦合意が10月10日に発効。イスラエル軍は、部隊を定められた撤収ライン(イエローライン)まで移動させた。南部ラファで28日、停戦中にもかかわらず、ハマスの戦闘員がイスラエル軍部隊に向けて対戦車ミサイルなどを発射した。この攻撃で、兵士1人が死亡した。イスラエルのネタニヤフ首相は、軍に対し「即時かつ強力な攻撃」を行うよう命じた。その直後、ハマスは、イスラエルが停戦合意に違反したとして、遺体の引き渡しを延期すると発表した。
カッツ国防相は声明で、ハマスがガザ地区でイスラエル兵を攻撃したと説明し、「ハマスは大きな代償を払う」と表明。イスラエル軍は28日夜、ラファで同軍部隊が攻撃を受けたことへの報復として、ガザ地区の各地でハマスのテロインフラなど数十カ所を標的に大規模な空爆を実施した。軍によると、30人以上のテロリストが潜んでいた指揮所も攻撃したという。その後、軍は停戦合意の履行を再開した。
カッツ氏は29日、ハマスは軍部隊への攻撃と死亡した人質の遺体返還を拒否し合意に違反したと強調。軍による攻撃でハマス指揮官数十人を殺害したと述べた。イスラエル軍は19日にも、ガザ地区への空爆を実施している。ハマスの対戦車ミサイル攻撃で、軍司令官と兵士が殺害されたためだ。
イスラエルとハマスの停戦や人質解放を仲介したトランプ氏は29日、「ハマスがイスラエル兵を殺害した。イスラエルが反撃するのは当然だ」と強調。停戦を危うくするものは何もないと述べた。また、「ハマスは中東和平のごく一部にすぎず、彼らは行動を改めなければならない」と語った。
第1段階合意では、ハマスは13日までに生存する人質20人と28人の遺体をイスラエル側に返還するとしていた。イスラエルは、ハマスによる人質の遺体返還の遅延を合意違反と見なしているが、米国は、遺体の引き渡しは「一夜では実現できない」とハマス側に一定の理解を示し、忍耐が必要だとしてイスラエルに理解を求めていた。ところが、ハマスが27日に返還した人質とされる遺体は、イスラエルが求めている遺体ではなく、既に収容した遺体の一部だった。
イスラエル首相府は声明を出し、「これは明らかな合意違反だ」と批判した。イスラエル当局は、ハマスによる遺体の偽装をドローンで撮影したとする映像を公開した。その映像はハマスが既に収容されていた遺体の一部を用いて埋葬と発見を演出し、その後赤十字の職員を呼び集める様子を捉えていた。当局は、これを心理戦の一環だと非難。人質の家族はこのハマスの偽装を非難した。
イスラエルのシンクタンクであるベギン・サダト戦略研究センターのシャウル・バルタル研究員は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「ハマスの狙いは、戦争前の状況に戻し、再武装することだ」と述べた。停戦が危うい状況にあるという警告は、ラファ近郊での28日の攻撃以前から存在していたという。バルタル氏によると、イスラエル人の遺体はハマスにとって停戦の重要な交渉材料となり、ハマスはガザ地区の支配権を取り戻すまで和平案の第2段階に移行させない可能性があるという。
バルタル氏は、「イスラエルは今後、ハマスに合意を守らせ、米国と連携しながら制裁を科すことを目指す必要があり、和平合意を支持した全ての人々を味方にし、少なくともガザ地区北部で軍事作戦を展開することができれば、ガザ地区の完全武装解除が実現するだろう」と結論付けた。
第2段階では、ハマスの武装解除やイスラエル軍の撤収などが含まれる。ハマスは、トランプ氏が示した和平案の20項目に同意したものの、現在は代替案を提示している。ロケット弾や対戦車ミサイル、ドローンのみを放棄し、自衛のための兵器は保持するというものだ。武装解除までまだ道程は長い。





