
イスラエルとイスラム組織ハマスが、米国などの仲介によって停戦に合意した。第1段階として、ハマスはパレスチナ自治区ガザで拘束していたイスラエル人の人質を解放し、イスラエルは服役していたパレスチナ人囚人を釈放した。第2段階でハマスが武装解除されれば、戦争終結となるが、ハマスは敵対勢力を処刑し、ガザ地区の支配を再び強化している。(エルサレム森田貴裕)
イスラエルとハマスは、トランプ米大統領が主導したガザ和平案の第1段階で合意し、10月10日にガザ地区で停戦が発効した。イスラエル軍は、停戦合意に基づき、ガザ地区に展開していた部隊を定められた撤収ライン(イエローライン)まで移動させた。ハマスは停戦発効後、生存する人質20人全員を期限の13日までに解放した。イスラエル側は、終身刑などに服していた250人を含むパレスチナ人囚人約2000人を釈放した。
停戦合意には、ハマスに拘束されていた人質全員が解放されるとあるが、ハマスは死亡した人質の遺体の所在特定に難航しているとみられ、18日の時点で遺体の返還は28人中10人にとどまっている。ハマスは、一部の遺体は瓦礫(がれき)の下にあり捜索が困難で、瓦礫を撤去するための特殊な機材が必要であるため時間がかかるとし、イスラエルがガザ地区への機材搬入を認めないことで遺体捜索を妨げていると非難している。
2023年10月7日にハマスがイスラエル南部を急襲し、約1200人を殺害、251人を人質に取った。イスラエル軍は、ハマスの攻撃に対しガザ地区で軍事作戦を開始。ハマスが運営するガザ保健省によれば、これまでに6万7000人以上のパレスチナ人が死亡した。
イスラエル軍少将(退役)で元国家安全保障問題担当首相補佐官、国家安全保障会議議長を務め、現在は米国家安全保障研究所の上級特別研究員のヤコブ・アミドロール氏は、エルサレム記者クラブで、「生存する人質20人が解放されたことは、イスラエルにとって大きな勝利である。これが実現したのは、米国やアラブ・イスラム諸国からのハマスへの強い圧力があったからだ」と語った。
イスラエルは、23年10月のハマスによる襲撃をきっかけに、ガザ地区のテロ組織だけでなくレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラも弱体化させた。イラン代理勢力への兵器の輸送に不可欠な中継地となっていたシリアでは政権が交代し、シャラア暫定政権がイスラエルとの安全保障協定締結に向けた動きを見せている。アミドロール氏によれば、イランの代理勢力として、まだイエメンの親イラン武装組織フーシ派が生き残っているが、当面は国家の存亡に関わるような戦略的脅威にはならないという。代理勢力の中核は、ハマスやイスラム聖戦、ヒズボラで、フーシ派は主力ではなかった。
イランは、高濃縮ウランを保有してはいるが、今年6月、イスラエルと米国が兵器級の高濃縮ウランを生産しているとされていたイラン核施設を攻撃し破壊したことによって、イランが核兵器を持つ可能性はかなり遠のいた。アミドロール氏によれば、イランはイスラエルとの新たな戦争を起こさないように非常に慎重になっているという。
アミドロール氏は、イスラエルのメディアで、「ハマスは2年間の戦争で軍事力の大半を失ったが、ガザ地区のパレスチナ人を恐怖に陥れ続けている」と述べた。ガザ地区では依然としてハマスが最強の勢力であり、誰が生き、誰が死ぬか、誰が食料を得るかを決めている。SNS上には、武装したハマス戦闘員たちが、イスラエルの協力者だとして白昼堂々とパレスチナ人を処刑する映像が投稿され、「ハマスに逆らうな」と警告している。
和平案の第2段階では、ハマスの武装解除、ガザ地区の戦後統治、イスラエル軍の撤収などが含まれている。イスラエルのネタニヤフ首相は、地元のテレビに出演し、「ハマスが武装解除され、ガザ地区の非武装化が完了すれば戦争は終わる。できれば穏便に、そうでなければ力ずくで行う」と語った。
第2段階の詳細については明らかにされていない。アラブ・イスラム諸国などが部隊を提供し、ガザ地区で国際部隊として活躍することが可能なのか。できなければ、イスラエル軍が再び侵攻するだろう。





