
トランプ米大統領は13日、イスラエル入りし、パレスチナ自治区ガザで「戦争は終わった」と誇らしく宣言した。それなりの理由はある。同地域を実効支配してきたイスラム過激派テロ組織「ハマス」は、イスラエル軍の報復攻撃を受け弱体化、最大の支援国イランも、イスラエル軍の「12日間戦争」で軍事的、経済的に後退を余儀なくされた。ハマスは2年前の奇襲テロで拘束した最後の人質をイスラエル側に引き渡し、戦いのカードがなくなってきたからだ。
トランプ氏による20項目の和平案は、第1段階の停戦と人質解放をクリアした。第2段階では、ハマスの非武装化がハードルとなる。ガザ地区の国際管理機構で排除されているハマスは今後、そこでの活動領域を失う。
では、ハマスはガザから完全に消滅するのか。そうではない。武装解除を拒否しており、憲章でイスラエルをパレスチナ領地から追放し、そこにパレスチナ国家を建設するまで戦い続けるというのだ。ハマスにとってイスラエルとの「2国家共存」は目標ではない。事実、「新たなナチスの牢獄(ろうごく)から最後の囚人が解放され、われわれの土地と聖地で占領が撤廃されるまで、決して安らぎを得ることはない」とパレスチナ代表は述べている。
ハマスの戦闘継続の宣言は単なる強がりだろうか。人質解放で、イスラエルは刑務所で拘束されていた1950人余りのパレスチナ囚人を釈放した。うち約250人は終身刑を受けたハマスの活動家たちだ。イスラエル側はその終身犯の釈放に最後まで難色を示した。潜在的な危険分子を渡すことになるからだ。
西側情報筋によると、ハマスはガザでの主導的役割を放棄する意向だが、その一方、パレスチナ全域を含むアラブ諸国でのテロ活動を、活発化させるとささやかれている。ハマスが現在、ガザでイスラエル側を支援した反乱分子を摘発、一部処刑しているとの情報が流れている。組織再編を進め、ハマスは新たな活動目標に向け、戦闘に乗り出す構えなのだ。
ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)のシナン・セレン新長官は13日、議会統制委員会の年次公聴会で、「人質解放でガザ地区和平への期待が膨らんでいるが、ハマスは依然としてドイツを含む欧州全域にとって脅威だ」と警告している。
公聴会ではまた、マルティン・イエーガー独連邦情報局(BND)長官が、「ハマスがガザから追放、または地下潜伏させられた場合、海外で活動開始の可能性がある。アラブ世界に留(とど)まらず、欧州でも間違いなく活動するだろう」と予測、「1960年代後半から70年代にかけて、テロ活動を行ったパレスチナ解放機構(PLO)と、ハマスは同じ道を歩むのではないか」と警戒している。ちなみに、PLOは1970年代前半にテロ活動を激化、「ミュンヘン・オリンピック襲撃事件」、「旅客機ハイジャック事件」、「イスラエル・ロッド空港襲撃事件」など数々のテロ事件を起こしている。(ウィーン小川 敏)





