
高濃縮ウラン、所在不明
イランの核兵器開発を阻止するためのイスラエルによるイランへの奇襲攻撃と米国の参戦でイランの核関連施設が破壊され、停戦となってから3カ月が経過した。イランが保有する高濃縮ウランの所在は依然として不明だ。イランはイスラエルの攻撃を警戒している。(エルサレム森田貴裕)
イスラエル国会議員で野党「わが家イスラエル」の党首リーベルマン元国防相は10月3日、X(旧ツイッター)への投稿で、「イランとの対立が終わったと考える者は皆、大きな間違いを犯している」と警告。リーベルマン氏は、イランが防衛体制を急速に再構築し、軍事力を日々強化しており、核関連施設の再建を加速させ、イスラエルの空爆に備えていると主張した。6月に12日間続いたイスラエル・イラン戦争を終結させた米国の仲介による停戦を激しく批判。この停戦合意は2~3年後により厳しい状況下での新たな戦争につながると懸念している。イランは復讐(ふくしゅう)に執着しており、イスラエルは先制攻撃を行うべきだと発言している。
イスラエル高官によると、イランがイスラエルへの攻撃を準備している、あるいは検討しているという情報機関からの報告はなく、また、イスラエルは現在、イランへの先制攻撃を行う意図もないという。
イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏は、リーベルマン氏の懸念は、全く根拠がないわけではないという。イラン当局は、6月のイスラエルによる攻撃で破壊された防空システムの復旧に取り組んでおり、ロシアや中国、北朝鮮に支援を求めている。弾道ミサイルの生産再開も進めているという。それとは対照的に、イランが既存のレベルを超えてウラン濃縮を再開した兆候はなく、核兵器開発計画に向けた新たな取り組みも見られないという。イスラエルの情報機関が懸念しているのは、イランが依然として保有する準兵器級の高濃縮ウラン約400キロだ。理論上は、粗雑な核爆弾、いわゆる「汚い爆弾」の製造に使用できる可能性があるが、そのような計画が進められている兆候はないという。
元国連核査察官で米シンクタンクの科学国際安全保障研究所(ISIS)のデービッド・オルブライト所長によると、イランはイスラエルによる新たな攻撃に対する準備を行っているという。オルブライト氏は9月上旬のXへの投稿で、「ナタンズ施設の最近の衛星画像は、空調設備棟のすべての冷却装置が撤去・解体されたことを示している」と述べた。冷却器の一部はヘリポートに移され、他の一部は浄水施設付近に移設、残りは施設内に分散されていると説明。イランが施設の一時閉鎖を利用して、イスラエルの空爆から重要な機器を守ろうとしていると指摘した。ナタンズの施設はイラン核開発の主要な濃縮ウラン製造施設の一つで、6月のイスラエルによる奇襲攻撃と米国の参戦で標的となった。
イラン軍のアミール・ハタミ総司令官は9月27日、首都テヘランでの演説で、6月のイスラエルによる攻撃について言及し、いかなる敵対行為に対しても断固たる対応を取る用意があることを改めて表明。強力に報復すると警告した。これに先駆けハタミ氏は、イラン各地の軍部隊を視察した際、「核開発計画は、武力では排除できない」と断言した。また、イラン革命防衛隊の上級司令官は10月初め、ミサイル射程を必要な限り延長すると述べた。これまでイランはミサイルの射程を2000キロと定め、敵対するイスラエルを射程圏内に収めていた。しかし、イラン西部のミサイル発射台がイスラエルの攻撃を受けたことで、東部から発射できるより長い射程のミサイルを徐々に増やしていた。
6月の攻撃はイランの核開発計画を1~2年遅らせた程度とされている。高濃縮ウランの所在は依然として不明であり、イランが秘密裏に核兵器開発を進める可能性がある。イランは、イスラエルが新たな奇襲攻撃を仕掛けるのではないかと疑っている。高濃縮ウランが核兵器開発に使用されれば、停戦は崩壊し、イスラエルによるイラン核施設への攻撃が再開される可能性がある。





