
【ウィーン小川敏】パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム過激派テロ組織「ハマス」が、イスラエルとの境界線を破壊して侵入、音楽祭に参加中のゲストや集団農園(キブツ)を襲撃して1200人以上のユダヤ人らを射殺、250人以上を人質にした「奇襲テロ」から7日で、2年が経過した。
ハマスによるテロの実態報道に接した国際社会は当初、イスラエルに同情と連帯を表明した。だが長続きしなかった。イスラエルがハマスに報復攻撃を開始すると、批判の声が飛び出してきた。
ニューヨークの国連総会で間もなく、戦闘を巡る緊急特別会合が開かれ、ヨルダンが提出した「敵対的な行為の停止」に向けた人道的休戦を求める決議案が賛成多数で可決された。決議案はアラブ諸国がまとめ、間接的にイスラエル軍のガザ攻撃を批判していた。採択後、イスラエルのギラッド・エルダン国連大使は、ハマスに言及がなく「イスラエル軍の報復攻撃」にのみ懸念を表明したとして、国連の公平性を批判した。
「ハマス壊滅」を掲げたイスラエルによるガザ軍事攻撃が激化するにつれ、国際世論は最初のハマスによる奇襲テロを忘れ、イスラエル批判一色となっていった。メディアが流すガザ地区でのパレスチナ人の悲惨な写真の数々がそれを煽(あお)った。
この流れは今日まで続いている。メディアによっては、イスラエルの軍事活動を「ジェノサイド(集団殺害)」と表現する。「被害者」だったイスラエルが「加害者」となり、批判は今日、イスラエル国内からも聞かれる。
イスラエルは反ユダヤ主義の言動急増を警戒する一方、ネタニヤフ首相は国民向けに「アマレクが私たちに何をしたかを覚えよ」と諭した。首相は旧約聖書の「申命記」に登場する「アマレク」に言及。かつてモーセがエジプトから60万人のイスラエルの民を引き連れ、神の約束の地へと歩みだしていた時、アマレク人はイスラエルの民を襲撃した。いつの時代でも背後からイスラエルを殺そうとする敵が存在すると、国民に改めて想起させようとしたわけだ。
ドイツの民間ニュース専門局ntvのウェブサイトで、ヴォルフラーム・ヴァイマー記者は「なぜ多くの左翼がイスラエルを憎むのか」をテーマに、記事を掲載。「カール・マルクスからグレタ・トゥーンベリに至るまで150年間、ユダヤ人への激しい憎悪が、左翼運動のDNAの一部として存在している」と書いている。
同じドイツの週刊誌「シュピーゲル」最新号は特集で、イスラエルの著名な社会学者、エヴァ・イルーズ女史のインタビューを掲載、女史はハマスの2年前の奇襲について「事件報道から、われわれ(ユダヤ民族)は何と傷つきやすい民族か、改めて思い知らされた」と述懐している。女史によると、イスラエル国民の中には今日、ハマスは壊滅、ガザも破壊するべきだと考える人々がいるが、イスラエル国外への移住も増えた。歴史上初めて、流出が流入を上回ったという。
女史はそれでも、ハマスの奇襲によるイスラエルの惨事と、その後の深刻な「道徳的、政治的危機の責任は、ネタニヤフ首相にある」と指摘する。
トランプ米大統領は9月29日、ネタニヤフ首相と会談、パレスチナ自治区ガザについて、20項目の和平計画を示した。エジプトのカイロでハマス、イスラエル、米国から代表らが集まり、和平案について交渉を続けている。女史は「イスラエル国民の70%が戦争終結を願っている」とする。パレスチナ住民も同じだろう。





