
7月中旬、シリア南部スワイダ県でイスラム教少数派ドルーズ派とスンニ派ベドウィン(遊牧民)の間で大規模な衝突が発生した。その後、治安回復のために派遣されたシリア暫定政府軍部隊が、ドルーズ派と衝突し、住民に対しても攻撃を行った。イスラエルはドルーズ派を保護するとして軍事介入。首都ダマスカスにある暫定政府軍の本部などを標的に空爆を実施した。シリアは依然として不安定な状況だ。(エルサレム森田貴裕)
最初の衝突は、スワイダ県でベドウィンのギャングがドルーズ派の男性を誘拐したことから始まった。ドルーズ派は、報復として、ベドウィン住民を拉致した。仲裁のために派遣されたシリア暫定政府治安部隊は、シリアのドルーズ派指導者ヒクマト・ヒジリ師と連携する民兵組織「スワイダ軍事評議会」の待ち伏せ攻撃を受け、治安部隊の少なくとも12人が死亡した。この事件をきっかけに、ドルーズ派とベドウィン、そして暫定政府軍の間で激しい戦闘が勃発した。
暫定政府軍はベドウィン戦闘員に加勢し、処刑、略奪、放火を伴う攻撃を行ったと報じられた。ヒジリ師は、暫定政府が停戦を破りドルーズ派を殲滅(せんめつ)しようとしていると非難した。イスラエルは、自国のドルーズ派に対し、シリアのドルーズ派を支援するために国境を越えないよう警告。しかし、苦境に立たされているシリアのドルーズ派コミュニティーを援護するためイスラエル側のドルーズ派約1000人が16日、両国の緩衝地帯にあるフェンスを越えてシリア領内に侵入した。
この事態を受け、イスラエルは、シリアのドルーズ派コミュニティーを保護するとして、首都ダマスカスにある暫定政府の軍本部およびシリア南部のベドウィン武装グループを標的に160回以上の空爆を実施した。イスラエルのネタニヤフ首相は、これらの攻撃は「ドルーズ派の兄弟たちを救い、暫定政府のギャングを排除するためだ」と述べた。イスラエルは人道支援も行っている。
イスラエルはドルーズ派との関係を大切にしている。1948年の独立戦争では、ドルーズ派の多くの若者がイスラエル軍に参加。56年以来、徴兵を志願したドルーズ派の兵士や警察官、治安部隊員は、イスラエルの防衛で多くの功績と犠牲を積み重ねてきた。
スワイダ県での激しい戦闘で、これまでにドルーズ派戦闘員427人とドルーズ派民間人298人が殺害された。在英のシリア人権監視団によると、7月13日の戦闘勃発以来、死者数は1120人以上と推定されている。ドルーズ派とベドウィンの戦闘は19日、米国の仲介によるイスラエルとシリア暫定政府の合意で停止した。
イスラエルは昨年12月にシリアでアサド政権が崩壊した後、ゴラン高原の緩衝地帯に進軍し、イスラエルへの脅威を防ぐ緩衝地帯を形成した。部隊を駐留させ、武器拡散を防ぐため、旧アサド政権の軍事施設や兵器倉庫などを標的に攻撃を続けてきた。また、シリアのドルーズ派が衝突に巻き込まれるたび、イスラエルはシリア領内を空爆してきた。
今年3月、暫定政府軍部隊が、アサド前大統領を支持してきた少数派のアラウィ派を大量に殺害した。イスラエルはシャラア暫定大統領が率いるシリア暫定政府をイスラム過激派と見なしている。イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏によれば、暫定政府軍は、過激派組織「イスラム国」(IS)やアルカイダの残党で構成されているという。
イスラエルとシリア暫定政府は、トランプ米政権の主導の下で、安全保障問題を巡る協議を行っていた。イスラエルは、シリアとの国境付近の広範囲な地域の非武装化と、それらの地域から暫定政府軍や民兵を排除することを要求している。その核心は、2023年10月7日にイスラエル南部で発生した事態、すなわち車両に乗った武装過激派による奇襲的な侵入を阻止することにある。
シャラア氏は、あらゆる少数民族や民族集団を差別なく保護していくと宣言しているが、現在の暫定政府軍は、シャラア氏がシリア全土支配を目指してイドリブから連れてきた過激派のならず者たちだ。シリアでは、国家権力の仮面をかぶった執行者による残虐行為が繰り返される不安が付きまとう。






