●始まったイスラエルとイランの戦争
アメリカのトランプ大統領は6月11日にアメリカ政府職員らを中東から退避させていることを明らかにした。イランと核協議をしている最中にアメリカ政府職員らを退避させることは異例。さらにイスラエルがイランを攻撃することも囁かれており、イランはイスラエルが攻撃したらイスラエルとアメリカ軍基地に報復攻撃を行うと公言した。

■Institute for the Study of War
https://x.com/TheStudyofWar/status/1934045944313483518
イランは6月12日にイスラエルとアメリカを脅すようにイラン革命防衛隊の軍事演習を開始。するとイスラエル軍は6月13日にイランへの先制攻撃を開始した。イスラエル軍の先制攻撃はイラン革命防衛隊施設・核開発施設の破壊に成功する。さらに革命防衛隊幹部の殺害にも成功した。イランはイスラエルへドローン攻撃から始まり、以後は弾道ミサイルの報復攻撃を行っている。
●戦争の予兆と先制攻撃の正当性
中東からアメリカ政府職員退避のニュースが確認されたのは6月11日。さらにイラン革命防衛隊が軍事演習を行った。軍事演習は敵がいないだけの戦闘であり、戦闘手順・物資消費・指揮命令などは実戦と同じ。だから各国は軍隊の練度維持・向上目的に軍事演習を行う。政治の面の軍事演習は仮想敵国への警告であり先制攻撃行う時の偽装工作。最近であればロシアが軍事演習を名目にロシア軍をウクライナ国境に移動させウクライナ侵攻を実行した。
■イランめぐる緊張受け中東から大使館職員退避 トランプ氏
https://www.afpbb.com/articles/-/3583001
このためアメリカ政府職員退避とイランの革命防衛隊の軍事演習は戦争の予兆だった。6月13日になるとイスラエル軍はイランを先制攻撃した。イスラエル軍が先制攻撃を行う前の世界はイスラエルに対して批判的な声明が大半だった。だがイスラエル軍が先制攻撃を行うとアメリカ・イギリス・フランスはイスラエルを支持する声明に変えた。例としてフランスはイスラエルの自衛の権利を支持すると述べており、これはフランスも自国が同じ立場になることを想定してイスラエルを支持した、これが国際社会。
■トランプ氏、イランが米国攻撃すれば米軍は「全力」で対応と警告
https://www.afpbb.com/articles/-/3583415
■英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スターマー首相
https://jp.reuters.com/world/security/LWLY3DL7FNN5TCLZJGL76RFJCE-2025-06-15/
【先制攻撃の区分】
・攻勢攻撃(Offensive Attack):国際社会で否定される
・敵国の国防線を踏み破って奇襲攻撃を仕掛ける。
【防勢攻撃(Defensive Attack):国際社会で肯定される】
自国の国防線の中で脅威国が戦争準備した段階で先制攻撃する。
アメリカ・イギリス・フランスはイスラエルの先制攻撃を批判しない。これはイランの核開発を戦争準備と見なしたのでイスラエルの先制攻撃を防勢攻撃と見なした。過去のアメリカはイラクのフセイン大統領がWMD(大量破壊兵器)の保有意志を公言しアメリカは戦争準備と見なした。アメリカは国連決議を間接的な宣戦布告としイラク戦争(2003-2011)を開始した。
■岩屋外相はイスラエルのイランへの攻撃について「極めて遺憾だ。強く非難する」と述べた
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025061300825&g=flash
さらに世界は大陸国家と海洋国家の対立構造が基本で、海洋国家アメリカ・イギリスがイスラエルの先制攻撃を支持したが日本政府はイスラエルの先制攻撃を批判する声明を出した。これは石破政権の失態であり日本も海洋国家なのにアメリカ・イギリスを怒らせる声明を出したのだ。アメリカとイギリスはイスラエル防衛に軍隊を派遣しており、さらにイギリス軍の追加派兵も予想されている。
これはイスラエルがスエズ運河防衛に必要な国であり、海洋国家アメリカ・イギリスの海上交通路防衛の要にされている。海洋国家は海上交通路・運河が国益の生命線だから、大陸国家が海上交通路・運河を遮断する動きを見せると常に軍隊を派遣して防衛している。このためイスラエルを守ることは表向きであり、本音はイスラエルを使ってスエズ運河防衛を行っている。だからアメリカ・イギリスはイスラエルの先制攻撃を支持しイスラエル防衛に軍隊を派遣している。
さらに悪いことにイランは、ホルムズ海峡を報復として封鎖することを匂わせている。これは海洋国家アメリカ・イギリスを怒らせる行為だから、イランがホルムズ海峡封鎖を実行するとイスラエル防衛からイラン攻撃に方針を変えることは間違いない。何故なら海上交通路を遮断されたら世界経済に打撃を与えるので国益を奪う行為。こうなるとヨーロッパの大陸国家フランス・ドイツなども国益を守る目的でイラン攻撃に参加するだろう。
これが明らかだからイランはホルムズ海峡封鎖を匂わせて欧米を恫喝するが、余程の覚悟がない限り実行しない。何故ならイランがホルムズ海峡封鎖を実行したらアメリカ・イギリス・フランス・ドイツなどがイラン攻撃に参加する。これが明らかだからイランとしてはイスラエル攻撃で終わらせるのが最善。しかし戦況が不利になり敗北が予期されたらホルムズ海峡封鎖で世界経済を道連れにするか、自殺覚悟で核ミサイルをイスラエル・アメリカ軍基地に撃ち込むことになる。
●イスラエルとイランの戦争目的
イスラエル軍とイラン革命防衛隊の攻撃を比較すると明確に分かれている。イスラエル軍は軍事施設・軍関係者を攻撃する戦術爆撃に限定している。それに対してイラン革命防衛隊は軍事施設だけではなくイスラエル国民まで攻撃する戦略爆撃を実行している。イラン革命防衛隊は民間人だと知りながら無差別に弾道ミサイルを撃ち込んでいるのが現実だから石破政権はイスラエルではなくイランを批判すべきなのだ。
■Israel Defense Forces
https://x.com/IDF/status/1933939001536254149
・イスラエル軍 :戦術爆撃
・イラン革命防衛隊:戦略爆撃
・イスラエル軍:革命防衛隊施設・革命防衛隊指導者・核開発施設の攻撃に限定
・イラン革命防衛隊:民間人を含む無差別攻撃
さらに国家が戦争を行う時は歴史的に全面戦争・限定戦争・制限戦争に目的が区分されている。全面戦争は交戦国の政権を否定する戦争目的であり、これは部族間抗争や国内戦争で使われる。限定戦争は政治の延長として戦争がある政治としての戦争であり3000年の戦争史では定番の戦争。制限戦争は第二次世界大戦後からアメリカが朝鮮戦争・ベトナム戦争で使う政治が軍事に介入する稀な戦争。
【戦争目的】
・全面戦争(All-out war) :交戦国の政権を否定する
・限定戦争(Limited war) :戦争目的が限定されている戦闘と交渉
・制限戦争(controlled war):政治が軍事に介入する
【手段・方法(戦い方)】
総力戦(Total war):政治・経済・軍事の全てを用いる
【戦争の傾向】
・全面戦争:総力戦になりやすい
・限定戦争:総力戦が困難
・制限戦争:軍事的不合理を克服して勝利を求めるほど総力戦に近くなる
【戦争の結果】
・全面戦争:勝利者がある戦争(敵国の滅亡)
・限定戦争:勝利者がある戦争(政治の延長としての戦争)
・制限戦争:勝利者なき戦争
イスラエルとイランは離れており陸軍で侵攻することは不可能。戦争は敵国に歩兵を侵攻させないと終わらない。何故なら占領機能を持つのは歩兵のみ。ミサイル・航空機は火力だから占領機能は持たない。これで戦争するとなれば全面戦争か限定戦争になる。限定戦争は政治の延長として戦争を行うが、敵政権・敵国民・宗教の抹殺が目的であれば全面戦争になる。
イランは全面戦争が目的であることは明白。イスラエルは作戦名“立ち上がるライオン”を開始。これはイラン革命前に戻すことを示唆している。イランはパフラヴィー朝だったがイスラム教組織が革命を起こして今のイラン共和国に変えた。このためイスラム教組織は国家を革命で奪ったがイラン軍と国民を信用していない。イラン軍と国民の反乱を恐れたので宗教組織の武装組織として革命防衛隊を設立した。
だからイスラエル軍はイランを攻撃しているが革命防衛隊指導者・施設だけを攻撃している。これはイスラエルが今の宗教組織が支配するイラン政権を革命前のイランに戻すことを示唆している。このためイスラエルから見ればイラン国民は敵ではなく味方。そうなるとイスラエルの戦争目的は限定戦争になる。
戦争は歩兵が敵国に侵攻しなければ終わらない。このためイスラエルはイランの革命防衛隊を攻撃し弱体化させる。これを見たイラン軍・イラン国民が革命防衛隊に対して武装蜂起することを望んでいる。これは諜報機関を使ってイラン軍・イラン国民と連携しているか不明。もしくはイスラエルが希望的観測で実行している可能性もある。現段階では不明だから革命防衛隊が弱体化したと判断したらイラン軍・イラン国民が武装蜂起して最終的にイスラエルが勝利する。しかしこれは致命的な問題を抱えている。それは仮に革命防衛隊が核弾頭を持っていればイスラエルに核弾頭を撃ち込むことを示唆している。
●日本政府の今後の対応
イスラエルとイランの戦争はイランがアメリカ・イギリス軍基地を攻撃しない、ホルムズ海峡を封鎖しなければ長期化する。だがイランが核弾頭を使用・アメリカ・イギリス軍基地を攻撃・ホルムズ海峡を封鎖すれば欧米軍がイラン攻撃に参加するから短期間で終わる。この選択肢を持っているのがイランだが、宗教組織の恐怖政治が弱くなったと判断したらイラン軍・イラン国民が武装蜂起する問題を抱えている。
このため革命防衛隊は常に強気な発言をしているから日本政府は国際社会の基本を用いてイランを批判すべき。今のイランは宗教組織が恐怖政治で国民を支配する国なのだから、イスラエルを支持して欧米の方針に合わせるのが政治の本道。石破政権はイスラエル批判を詫びてイラン批判に方針を変えよ。そうしなければ海洋国家アメリカ・イギリスの政治的な報復を受けるだろう。だが今の日本国民から見れば喜ばしいことだ。何故なら石破政権は国民を苦しめているからだ。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)