
イスラエルが13日、核開発計画を急速に進めるイランに対し軍事作戦を開始した。イランは、イスラエルによる核関連施設や軍事施設などへの大規模な空爆に対して報復を宣言。イスラエルに向けてドローン(無人機)や弾道ミサイルを発射した。双方は連日攻撃を繰り返し、中東情勢が一気に緊迫化している。(エルサレム森田貴裕)
国際原子力機関(IAEA)の5月報告書によると、イランの濃縮度最大60%のウランの保有量は推定で408・6㌔に上り、2月時点と比べ133・8㌔増加した。さらに濃縮すれば核爆弾9個分に相当するという。
イランは、自国の原子力開発は平和利用が目的だと主張している。だが、イランはIAEAの上級査察官の受け入れを拒否し、原子力開発に関する質問にも回答していない。現状が平和利用の範囲かどうかは確認できていない。6月12日、IAEAは定例理事会で、核開発に関する調査への協力が不十分で、情報の提供もしていないとして、「イランが査察協定に違反している」と同国を非難する決議を採択した。
一方、イランは12日、IAEAの採択への対抗措置として、新たなウラン濃縮施設を稼働させると表明したほか、中部フォルドゥの核施設に設置されているウラン濃縮用の遠心分離機を最新型に更新すると発表した。
トランプ米大統領は2018年5月、イランと米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国の間で15年に成立した核合意「包括的共同行動計画(JCPOA)」は、恒久的でなくミサイル開発計画などに対応していないと指摘し、核合意から一方的に離脱。対イラン制裁を再開した。トランプ米政権はイランとの新たな核合意を求めている。
イランの核兵器保有を警戒する米国は、ウラン濃縮活動を制限するためイランと外交的努力を重ねている。今年4月以降、米国とイランは核協議を5回実施した。ただ、ウラン濃縮活動の完全停止を要求する米国に対し、イラン側は民生利用目的の濃縮継続を主張しており、まだ合意には至っていない。
こうした中、イスラエルは13日未明、対イラン軍事作戦を開始した。イスラエル空軍戦闘機200機以上が、イラン中部ナタンズの地下にあるウラン濃縮施設、北西部タブリーズと西部ハマダンの空軍基地、首都テヘランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」司令部を攻撃。イラン軍トップのバゲリ参謀総長や革命防衛隊トップのサラミ司令官や核科学者らを殺害した。イランの高官数十人が死亡したと報じられた。
イスラエル当局者によれば、空爆と並行して対外情報機関モサドの工作員が、イラン国内で秘密裏にミサイル発射基地や防空システムを狙い破壊工作を行っていた。イラン領内にミサイルやドローンも配備していたという。
イスラエルのネタニヤフ首相は13日、ビデオ声明で、「この軍事作戦は、イランの核兵器開発を阻止するために必要だった」と強調。「イスラエルはイラン国民と戦争をしているのではなく、イスラエル殲滅(せんめつ)を実行しようとするイラン政権を攻撃しているだけだ」と述べた。イスラエル当局者は、「イランが核保有国になる危険性は、イランの政権が崩壊した場合にのみ解消される」と述べている。
ネタニヤフ氏は、作戦開始日の「イランへの奇襲攻撃は成功した」と戦果を誇示した。イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏は、米国とイスラエルは協力関係にあり、トランプ氏とルビオ米国務長官が、イスラエルによる対イラン攻撃開始の数日前、「米国はイスラエルが計画するいかなる攻撃も承認しておらず、参加するつもりもない」と発言したのは、イランに不意打ちを食らわすための策略だったと評価した。
一方、イランの最高指導者ハメネイ師は、イスラエルによる攻撃後の最初の声明で、「わが国は戦時体制に入った」と宣言。「シオニスト政権(イスラエル)は居住施設を攻撃する犯罪行為に手を染めた。厳しい処罰を覚悟しなければならない。必ず報いを受けるだろう」と警告した。
イランは連日、報復としてイスラエル全土に向けて多数のドローンや弾道ミサイルを発射。イスラエル軍の防空システムが迎撃しているものの、中部の商業都市テルアビブや北部の都市に複数のミサイルが着弾し、イスラエル側でも多くの死傷者が出ている。
イスラエルは、必要な限り対イラン軍事作戦を継続するとしている。ベンイシャイ氏は、作戦は少なくとも1週間は続くとみており、双方の攻撃の応酬が続く可能性がある。