報復長期化か 基地攻撃も
米軍が3月中旬、イエメンの親イラン武装組織フーシ派の拠点を標的とした大規模な空爆を開始した。米国は、フーシ派が紅海で船舶などに攻撃を仕掛けていることへの措置だとしている。一方のフーシ派は報復として、米空母を攻撃。中東地域の緊張が一段と高まっている。(エルサレム森田貴裕)

米軍は3月15日、フーシ派が支配する首都サヌアや西部ホデイダの港などフーシ派の軍事拠点へ大規模な空爆を開始。各地で空爆を続けている。フーシ派の保健当局によると、空爆の初日、女性や子供を含む少なくとも53人が死亡し、約100人が負傷した。
一方、フーシ派は16日、報復として、米空母「ハリー・S・トルーマン」を標的にミサイルやドローンで攻撃。翌17日にも2回目の攻撃を行った。フーシ派は声明で、空母打撃群を標的に、弾道ミサイルや巡航ミサイル18発、ドローンを発射したと発表した。米当局者によると、フーシ派のドローンは迎撃され、トルーマンの被害情報は伝えられていないという。
フーシ派は、2023年10月のイスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスの戦闘が開始された後、ハマスとの連帯を表明してイスラエルに宣戦布告。同年11月以降、紅海とアデン湾を航行する船舶を標的に、攻撃を繰り返している。これまでに2隻の船舶を沈没させ、1隻を拿捕(だほ)し、乗組員少なくとも4人を殺害した。フーシ派は、イスラエルがパレスチナ自治区ガザの封鎖を解除し、イスラエル軍の撤収が実施されるまで、紅海を航行する船舶への攻撃を続けるとしていたが、今年1月のガザ地区でのイスラエルとハマスの停戦で、船舶への攻撃を停止。3月に入りイスラエルがガザ地区への人道支援物資の搬入を停止したため、攻撃再開を宣言した。
米国は船舶を護衛するための有志連合を結成。24年1月以降、米英の両軍がフーシ派の軍事拠点や地下施設などをたびたび空爆してきたが、フーシ派は対決の構えを崩していない。フーシ派による攻撃を回避するため、多くの船舶が紅海の航路を変更し、迂回(うかい)を余儀なくされ、物流の遅延や運賃の上昇など世界の経済にも影響が出ている。
トランプ米大統領は、イエメンへの大規模空爆の開始について、船舶の航行を安全に保つ必要性を強調し、「目的を達成するまで圧倒的な殺傷力を行使する」と述べた。また、フーシ派に対し、船舶への攻撃を停止しなければ「これまでに見たことのないような地獄の雨が降り注ぐだろう」と警告した。
これまでの米英有志連合軍による攻撃では、死者数が数人だったが、今回の米軍による攻撃の死傷者は多く、50人以上が死亡している。米政治アナリスト、スティーブン・ターナー氏は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、米国の軍事行動について、「目的は海運の航路保護だが、攻撃の巻き添えで民間人に多くの犠牲者が出ることは、反米感情をあおり、フーシ派の士気を高める可能性がある」と警告している。
イタリア人ジャーナリストでイエメン問題の専門家のローラ・バッタリア氏は、メディアラインで、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は、米国の重要な同盟国であり、フーシ派の報復の潜在的標的となっていると指摘。「フーシ派は以前にもサウジのインフラに向けてミサイル攻撃を仕掛けている。エスカレートすれば同様の脅威がUAEに向けられる恐れがあり、中東地域全体の不安定化を招く可能性がある」と警鐘を鳴らす。バッタリア氏は、「フーシ派は攻撃されれば必ず報復する。問題はフーシ派による報復攻撃が長期化することだ」と強調した。
匿名のイエメン人アナリストはメディアラインで、「15年のイエメン内戦開始時には、南部の多くのイエメン人がサウジやUAEを歓迎し、フーシ派の支配から解放されると信じていた。しかし、何年にもわたる政策の失敗などを経て、その支持は完全に失われてしまった」と述べた。「フーシ派はイエメン社会に深く根を下ろしているため、フーシ派を排除するには軍事行動以上のものが必要だ。イエメンの政治秩序を完全に再構築する必要があるが、現時点ではどの外国勢力もそれを達成することはできない」と結論付けている。
フーシ派は、中東地域にある米軍基地を標的にするとしており、米軍による軍事行動が中東地域を一層不安定化させる可能性がある。






