世界各地で不法移民が問題となる中、アフリカからも紛争や貧困などさまざまな理由で国外に脱出する人も多い。小船で海を渡るなど危険な手段で行われることが多いため、途中で命を落とすケースが後を絶たない。(長野康彦)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は先月、「サハラ砂漠と地中海が移民の集団墓地になっている」とし、海路と陸路で失われた命の悲劇が「終わりが見えない」まま続いていると述べた。今年に入ってこれまでに35万人以上の難民と亡命希望者を記録し、その多くは北アフリカで保護を求めるスーダン難民であることを明らかにした。
世界的な人の移動の問題を専門的に扱い、スイスのジュネーブに本部を持つ国際移住機関(IOM)は2023年、世界中で8542人の移動中の移民死亡を記録したと発表。これは14年にデータを収集し始めて以来最多で、そのうち37%は地中海で発生していると述べた。
また今年1月から8月にかけて、13万4000人以上の難民と移民が北アフリカと西アフリカから欧州に向けて海路で出発し、9月17日の時点で航海中に1450人が死亡または行方不明になったことが分かった。
IOMが集めた23年と24年のデータによると、移民の主要な要因は経済的理由が44%、戦争と紛争29%、暴力からの逃避が26%となっている。
UNHCRの報告書は、移動する人々は死亡、性暴力、身代金のための誘拐、人身売買、強盗、その他のリスクに直面していると発表。「海で命を救い、人道支援を提供することは人類の最も基本的な義務の一つ」として、この悲惨な状況を改善するために、人権保護の維持、密航業者の取り締まり、海上での捜索救助の拡大などを提言した。
アフリカ移民の主な渡航先は欧州だ。英国の前保守政権は英仏海峡を小型船舶で渡ってくる不法移民問題の解決策として、アフリカ中部ルワンダへの移送を計画していたが、7月の政権交代でスターマー首相が計画廃止を宣言。ルワンダへは移民受け入れの見返りとして2億7000万ポンド(約550億円)がすでに支払われているが、ルワンダ政府は突然の計画廃止に「返金の義務なし」と英国の方針転換に応じない構えだ。
アフリカから欧州を目指す移民が絶えない中、アフリカ西部セネガルのウスマン・ソンコ首相は7月、アフリカ西部モーリタニア沖で移民170人を乗せた船が転覆し、少なくとも90人が死亡、70人以上が行方不明となった事故を受け、自国の学生たちに、「残念で嘆かわしいことだ。今一度、若者たちに訴えたい。皆さんが求める解決策は丸木舟にはない」と演説。「一部の若者が移住したがっている国々は、危機の最中、あるいはその始まりにある」としながら、「世界の未来はアフリカにある。若者はこのことを認識する必要がある。発展と大きな成長の余地がある大陸はアフリカだけだ」と訴えた。
アフリカから欧州を目指す移民は、地中海ルートの取り締まりが強化されたのを受けて、海流が強く危険な大西洋を北上するケースが増えている。スペインの慈善団体カミナンド・フロンテラスによると、今年1月から5月までで、アフリカから5000人以上がスペインに渡ろうとして海で命を落とした。その中には女性や子供も含まれており、1日当たり33人が死亡した計算で、2007年の統計開始以来最多となった。