トップ国際中東ISが勢力拡大 アフガンが再びテロの温床に

ISが勢力拡大 アフガンが再びテロの温床に

2021年8月に米軍がアフガニスタンから撤収し、イスラム主義組織タリバンが政権を掌握して以来、国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)などのテロ組織が勢力を拡大、再びテロの温床になっている。テロの脅威はアフガン国内に留(とど)まらず、世界の指導者はテロの増加に懸念を表明している。(エルサレム森田貴裕)
銃乱射テロで火災に見舞われる「クロッカス・シティー・ホール」=3月22日、モスクワ郊外(AFP時事)
銃乱射テロで火災に見舞われる「クロッカス・シティー・ホール」=3月22日、モスクワ郊外(AFP時事)

23年6月に発表された国連の報告書は、21年8月にアフガンから米軍が撤収して以来、約20のテロ組織が勢力を拡大し、戦闘能力の向上を続けていると警告した。アフガンを拠点とするIS支部「イスラム国ホラサン州」(IS―K)は、タリバンの対テロ作戦によって壊滅したとされたが、勢力を盛り返してタリバンへの攻撃を激化させている。IS―Kは、タリバンの治安部隊やイスラム教シーア派の少数民族ハザラ人に対する攻撃を日常的に計画し実行している。

タリバンは21年8月に国家の支配権を取り戻した後、テロ組織に指定されている多くの武装グループを統合した。イスラエル防衛・安全保障フォーラム(IDSF)の研究員で、テロ専門家のエラン・ラハブ氏は、イスラエル紙イディオト・アハロノトで、アルカイダは現在、タリバンと緊密な協力体制にあり、アルカイダの工作員はタリバン政権の一員として活動していると指摘した。実際、タリバンはアルカイダの指揮官や工作員に、武器、住居、パスポート、数十年かけて築いた大規模な麻薬密輸ネットワークへのアクセスなど、必要なものすべてを提供。イエメン、リビア、ソマリア、パレスチナのテロリストが、タリバンが全面的支援をするアルカイダ運営の施設で軍事訓練を受けているという。

国連の最新の報告書によると、アフガンのアルカイダが、隣国パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」を支援して、工作員をパキスタンに送り込みテロ活動を行っているという。報告書はまた、タリバンがTTPの指導者のために首都カブールに新しいゲストハウスを設置し、移動を容易にし逮捕されないよう通行証や武器所持の許可証を幹部らに発行しているとも指摘している。

欧州でもイスラム過激派によるテロの脅威が深刻さを増している。IS―Kは過去1年間で、ドイツやオーストリアなど欧州の9カ国で21件のテロ攻撃を計画していたとされる。これは、前年の8件を大幅に上回っている。ドイツでは、大みそかに西部ケルンの大聖堂でテロを計画していたテロリスト4人が逮捕されるなど、ここ1年半でIS―Kのテロ計画の多くが阻止された。オーストリアの首都ウィーンでも、聖シュテファン大聖堂でテロを計画していたとされるテロリスト3人が逮捕されている。

IS―Kは、今年3月22日にロシア・モスクワ郊外のコンサート会場で173人が死亡した銃撃テロ事件で、犯行声明を出している。前日にはアフガン南部の都市カンダハルで同組織による自爆テロがあり、21人が死亡した。また、今年初めにイラン南東部ケルマンにある故ソレイマニ革命防衛隊司令官の慰霊碑前で100人近くが死亡した自爆テロ事件についても、同組織が犯行声明を出した。

ロシア、イラン、パキスタン、サウジアラビア、中央アジア諸国など各国の指導者は、アフガンが再びイスラム過激派の温床と化し、明らかにテロ組織が勢力を増していることから、テロの脅威の増加について懸念を表明している。

タリバンとISは敵対関係にあるが、双方は全世界のイスラム教徒の頂点に立つ「カリフ制国家」の樹立という同じ目標を持っている。ISはアフガンだけでなく主にアフリカで勢力を伸ばしている。ラハブ氏によれば、ISとアルカイダは、西側諸国でも勢力拡大を図り、工作員や支援者を募っているという。

アフリカやアジアで第2のアフガンが生まれ、西側諸国でISなどイスラム過激派によるさらなるテロ攻撃が行われる可能性がある。

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