
パレスチナ自治区ガザやイスラエルとレバノンの国境に国際社会の目が向けられる中、イランが核開発を拡大し、核兵器の製造を議論している。イスラエルは再びイランの核の脅威に目を向け始め、米国も対イランで共に戦うと表明した。(エルサレム森田貴裕)
イスラエルのネタニヤフ首相が6月中旬、イランの核の脅威に関する一連の作業部会を再設置するよう指示を出した。米ネットメディア「アクシオス」が26日、複数のイスラエル高官の話として報じた。
現ネタニヤフ政権が2022年12月に発足して以来、司法制度改革やイスラム組織ハマスとの戦争に集中していたため、最近になってようやく再びイランの核問題に目を向け始めたという。
報道によると、イランが早ければ来年1月に核保有国を目指して核兵器開発を始める可能性があると懸念されている。
ネタニヤフ氏に近い元国家安全保障顧問のヤーコブ・ナゲル氏によると、イランが核開発計画のスケジュール短縮を模索している可能性があるという新たな情報を得たという。イランの最高指導者ハメネイ師はこの動きを把握しているが、まだ正式には承認していないとみられている。イランは国家の法体系にシャリア(イスラム法)を取り入れており、核兵器の保有、生産、使用を禁止している。イランの核開発は現在、学術的研究として行われている。
米紙ニューヨーク・タイムズは27日、イランの外交官や革命防衛隊のメンバーら4人の話として、イランの指導者らは、核兵器の製造に着手する時期が来たかどうかについて議論していると報じた。さらに、ハメネイ師に近い高官3人がここ数週間、イランが存亡の危機に直面しているとみなせば、イランの非核主義は覆せると公言しているという。
イランは6月中旬、国際原子力機関(IAEA)に対し、中部フォルドゥの核施設に高性能遠心分離機「IR6型」を複数連結したカスケード8基を増設し、ウラン濃縮能力を急速に拡大すると通知した。これに対し、米国は27日、イランが核開発を拡大しているとして新たな制裁を科すと発表。ブリンケン米国務長官は、イランに核兵器を保有させないためあらゆる措置を講じると強調した。
IAEAの28日の報告書によれば、イランが増設するカスケードのうち4基をフォルドゥ核燃料濃縮工場の1号機に設置したことを確認したという。イランは1号機の稼働開始時期や濃縮レベルを明らかにしていない。IAEAはイランに対し調査に協力し、査察官の受け入れ拒否を撤回するよう求めている。
核問題の専門家である米物理学者デービッド・オルブライト氏によれば、イランはここ数週間でフォルドゥ工場に1400台の高性能遠心分離機を設置した。ウラン濃縮の能力は360%に増加することが予想され、1カ月以内に核兵器5発分の兵器級濃縮ウランを生産できるようになるという。
イスラエルのガラント国防相は25日、米ワシントンでオースティン米国防長官と会談し、イランの核兵器保有阻止に向けた戦いは「時間切れになりつつある」と警告。世界と中東地域にとって今後、最大の脅威となるのはイランだとして、核の脅威が現実化しないようにイスラエルと米国が協力しなければならないと強調した。米国防総省は、会談後の声明で、米国とイスラエルは、イランおよびイラン代理勢力によるイスラエルへの攻撃や中東全域を不安定化させようとする動きに対して共に立ち上がるとして連帯を表明した。
ヘブライ大学ハリー・S・トルーマン平和研究所の研究員でイランの専門家であるメナヘム・メルハビ博士は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「イスラエル、米国、その他の国際社会は、ここ数カ月、ガザ地区やイスラエルとレバノンの国境での紛争に大きく時間を取られたため、イランの核開発計画から注意が逸(そ)らされていた。イランはそれをうまく利用していたようだ」と分析する。また、「イランは、ヒズボラが今の時点でイスラエルとの大規模な紛争に巻き込まれることを望んでおらず、イスラエルが自国の核施設を攻撃した場合に利用するためヒズボラを温存したい考えだ」と述べた。
イスラエルが近い将来、イランの核施設を攻撃した場合に、イラン代理勢力のヒズボラがイスラエルへ大規模攻撃を行う可能性がある。