イスラエルによるパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスに対する軍事作戦が続く中、イスラエルのネタニヤフ首相は終戦後のガザ地区の統治に関する計画を提示した。米国は、パレスチナ自治政府によるガザ地区の統治を望んでいる。(エルサレム・森田貴裕)
ネタニヤフ氏が22日にイスラエル戦時内閣に提示したハマスとの戦闘終結後のガザ地区の統治に関する計画は、イスラエルがガザ地区で治安管理を行い、ハマスとつながりを持たないパレスチナ当局が行政を行うというものだ。
ネタニヤフ氏の計画では、テロの再発を防ぐためにイスラエル軍が戦後もガザ地区全域で自由に行動するという。また、ガザ地区の国境沿いに安全保障緩衝地帯を設置する計画を進めるとしている。緩衝地帯の設置は、ガザ地区の領土が減ってしまうことからバイデン米政権が反対している。さらに、「ガザ地区南部の封鎖」を実施するとしている。ガザ地区とエジプトの国境にイスラエル軍が駐留し、エジプトや米国と協力してラファ検問所や国境を超える地下トンネルなどからの武器密輸を阻止すべきだと主張する。
米国など国際社会は、パレスチナ自治政府が戦闘終結後のガザ地区を統治することを望んでいる。しかし、ネタニヤフ氏の計画では、自治政府に関する記述はなく、ガザ地区の統治に関与するかどうかは不明だ。代わりに、ガザ地区の民政は「行政経験」があり「テロを支援する国や団体」と関係のない「地方公務員」によって運営されるとしている。首相府の声明は、「この提案は国民に広く受け入れられている原則に基づいており、ガザ地区の戦後統治に関する将来の議論の基礎となるだろう」と述べた。
イスラエルは、自治政府が10月にイスラエル南部を奇襲したハマスを非難しなかったことや、ハマスのテロリストの家族へ報酬を支払っていることなどを指摘し、戦後統治に組み込まれるべきではないと主張する。
ネタニヤフ氏の計画には、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の閉鎖も盛り込まれている。報道によると、イスラエルはUNRWAがハマスと関係があると主張するが、UNRWAはこれを否定している。米政府の諮問機関による報告書が最近発表され、UNRWAとハマスとの関係に疑問が投げ掛けられている。UNRWAの学校では、これまでイスラエルを敵視する教育が行われていることが指摘されてきた。
パレスチナ自治政府のアッバス議長の報道官アブ・ルデイネ氏は、ネタニヤフ氏の計画について「失敗する運命にある」として厳しく批判。ガザ地区を分離統治する取り組みを拒否した。「世界がこの地域の安全と安定を望むなら、イスラエルによるパレスチナ領土の占領を終わらせ、エルサレムを首都とするパレスチナ国家を承認しなくてはならない」と述べた。
ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地は約150カ所で、51万7000人以上が住んでいる。相次ぐテロ攻撃にもかかわらず10年間で38%増加した。1月の世論調査では、イスラエル人の74%がパレスチナ国家の樹立に反対していることが判明した。昨年12月のパレスチナの世論調査では、入植地拡大で、65%が2国家共存はもはや実現不可能と回答している。
ネタニヤフ氏は18日、イスラエルは10月7日の虐殺の後で「パレスチナ国家」を一方的に承認するという国際社会による呼び掛けに同意することはできないと宣言した。閣議で宣言を採決にかけ、全会一致で決定した。イスラエルの声明は、パレスチナとの和平は国際社会の決定ではなく、「前提条件なしの当事者間の直接交渉によってのみ実現する」と強調。昨年10月のハマスによるイスラエル奇襲をきっかけにパレスチナ国家を承認すれば、テロリズムに対する前例のない報酬となり、将来の和平合意を妨げることになると指摘した。
イスラエルの戦時内閣に加わっているガンツ前国防相は、イスラエルに対するテロと憎悪を説く現在のパレスチナの教育制度を大きく変えることを提案している。イスラエル政府がこれに着手できれば、イスラエルとパレスチナの未来に希望が持てる。