トップ国際中東イラン軍事顧問死亡で報復懸念 イスラエル軍が空爆か 国防相「多方面で戦争状態」

イラン軍事顧問死亡で報復懸念 イスラエル軍が空爆か 国防相「多方面で戦争状態」

パレスチナへの連帯を示し、パレスチナ 旗の警備にあたるフーシ派の兵士ら 12 月13日、イエメンの首都サヌア(EPA 時事)

シリアでイスラエル軍によるとみられる空爆があり、イラン革命防衛隊(IRGC)の上級軍事顧問が死亡した。イランは報復を宣言。イスラエルを狙った攻撃の懸念が高まっている。(エルサレム・森田貴裕)

シリアの首都ダマスカス郊外で昨年12月25日、イスラエル軍によるとみられる空爆で、IRGCのムサビ上級軍事顧問が死亡した。イランのライシ大統領は声明で、「イスラエルはこの代償を必ず払うことになる」と警告した。

ムサビ氏は、イランの英雄的存在で2020年にイラクで米軍に殺害されたコッズ部隊のソレイマニ司令官の側近で、30年間シリアに住み親イラン民兵組織の軍事顧問として活動。イラン、シリア、レバノン間の軍事物資輸送や資金移送、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの戦闘員への月々の支払いも担当していたとされる。

IRGCも27日に声明を出し、報復を宣言。イスラエルは第2の「10月7日の奇襲攻撃」に備えなければならないと警告した。イラン司法当局は29日、イスラエルの対外情報機関モサドのスパイとして破壊工作を行ったイラン人4人を処刑した。

イランはシリアの重要な支援国で、11年のシリア内戦開始以来、アサド政権に軍事顧問や軍事装備、シーア派民兵の派遣、財政支援などを行ってきた。イランは13年、シリア経由でレバノンのヒズボラへ向けて大量の精密誘導ミサイルを輸送し始めた。それ以来、ヒズボラへの武器移送を阻止することを目的としたイスラエル軍によるシリアへの空爆が繰り返し行われている。

10月のイスラエル南部でのイスラム組織ハマスによる奇襲攻撃を受け、パレスチナ自治区ガザへ地上侵攻したイスラエル軍とハマスの戦闘が始まった。イランからハマス支援の指示を受けたシリアの親イラン民兵組織は11月初旬、イスラエル南部の港湾都市エイラートにドローン(無人機)攻撃を行い、学校の校舎に被害が出た。イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏によれば、この攻撃はIRGC空軍司令官の指揮下で行われたという。同司令官は11月下旬、イスラエル軍によるとされる攻撃で死亡。12月初旬には別のIRGC司令官が暗殺されている。司令官らはシリアに駐留している軍事顧問で、イスラエルへの複数のドローン攻撃に関与した可能性が高いという。

イランの代理勢力であるイエメンの武装組織フーシ派は、ハマスを支持してイスラエルに宣戦布告。エイラートに向けて弾道ミサイルなどを発射し、紅海ではイスラエル関連船舶の拿捕(だほ)や攻撃を行っている。フーシ派は、イスラエルがガザ地区への攻撃を続ける限り紅海での作戦を続けると警告している。

元イスラエル軍情報将校でエルサレム戦略安全保障研究所のイラン専門のグリンバーグ少佐(退役)は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「イランは基本的に、紛争に直接関与しない」と指摘。フーシ派による攻撃激化で、スエズ運河を通りイエメン沖の紅海を航行する商船は、アフリカ南端の喜望峰を迂回(うかい)し大西洋を航行しなければならないため、「世界的な経済危機を引き起こす可能性がある」と述べた。

テルアビブ大学国家安全保障研究所(INSS)上級研究員のグザンスキー博士はメディアラインで、イスラエルに対する「すべての攻撃の背後にはイランが存在し、イスラエルの疲弊を企んでいる」と分析する。イランは、過去数十年にわたってイスラエル殲滅(せんめつ)を呼び掛け、ハマスへの資金提供や軍事訓練を支援してきた。イスラエル北部では、ヒズボラとイスラエル軍の局地的な交戦が続いているが、「ヒズボラの戦力損失は少ない」との見方を示し、「イランは核施設が攻撃された場合、報復に必要なヒズボラの攻撃力を保持させるため、フーシ派を用いている」と語った。

イスラエルのガラント国防相は26日、「イスラエルは多方面で戦争状態にある」と述べ、ガザ地区、レバノン、ヨルダン川西岸地区、シリア、イラク、イエメン、イランの計7地域から攻撃を受けていると説明した。

米国の支援を受けるイスラエルは、ガザ地区でハマスの壊滅に向け戦っている。ハマスとの戦争が終結した後も、イスラエル殲滅を目指すイランは、別の代理武装勢力を用いてイスラエルへの攻撃を続ける可能性がある。

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