
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃から1カ月が過ぎた。イスラエル軍は、ハマスの壊滅と人質の救出に向けてガザ地区への空爆を継続し、地上攻勢を強めている。(エルサレム・森田貴裕)
イスラエルのガラント国防相は4日、テレビ演説で、「わが軍は、ハマスの戦闘部隊を確実に解体しており、今後も地上作戦を続ける」と述べ、ガザ地区でさらに攻勢を強める意向を示した。また、10月7日のイスラエルへの奇襲攻撃を主導したとされるハマスのガザ地区トップ、ヤヒヤ・シンワル氏を「見つけ出し、排除する」と言明。戦争が終われば、「ガザ地区にハマスはもう存在しないだろう。 ガザ地区からのイスラエルに対する脅威はもはやなくなり、イスラエルは完全な自由を有することになる」と語った。
ハマスの襲撃についてのイスラエル軍の最新の調査報告によれば、その日の早いうちにハマス戦闘員約3000人がガザ地区境界を越えイスラエル南部地域へ侵入した。その後のイスラエル軍によるハマス掃討作戦では、最初の2日間の戦闘で約1000人のハマス戦闘員が死亡、200人を拘束したという。
イスラエルの国内治安機関シンベトが公開したハマス特殊部隊メンバーの取り調べ映像では、ハマスの戦闘部隊がイスラエルの子供や家族を銃撃したと自供している。男は「われわれの部隊の唯一の任務は殺人であり、誘拐ではなかった」と語り、 見た者全員を殺してガザ地区に戻るよう命令を受けていたという。ハマスによる襲撃では、外国人を含む民間人1400人以上が死亡し、240人以上が連れ去られ人質としてガザ地区で拘束されている。
レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの指導者ナスララ師は3日、「ハマスの勝利はわれわれアラブ諸国の勝利だ。ハマスを支援することはわれわれの義務である」と述べ、「地域戦争を防ぎたければ、直ちにガザ侵攻を止めなければならない」と警告した。ナスララ師は、また、10月7日のハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃について、「完全に秘密裏に計画されたハマスの作戦は、 海外のイスラム抵抗勢力は言うまでもなく、他のパレスチナ諸派さえも知らなかった」と語った。ヒズボラが数日前から大々的に宣伝していたナスララ師の演説は、宣戦布告の可能性があると予想されていたが、そこまで踏み込まなかった。
イランの支援を受けるヒズボラは、レバノン南部イスラエルとの国境沿いでイスラエル軍と交戦を続けているが、本格的な戦争を開始するまでには至っていない。英紙フィナンシャル・タイムズが3日、レバノン当局者らの話として報じたところによると、ナスララ師はレバノンがイスラエルとの戦争に耐えられる状態にないことをよく分かっており、消極的だという。レバノンは4年前の金融危機以来、経済が破綻し国家が崩壊状態に陥っている。
ヒズボラやハマスと同様にイランの支援を受けるイエメンの反政府武装組織フーシ派は、イスラエル軍によるガザ地区への攻撃がやむまで、イスラエルを狙った攻撃を続けると宣言している。イスラエル軍は紅海にミサイル艇を配備した。米国が派遣した2隻目の空母も中東海域に到着した。米国は既に空母1隻を東地中海に派遣済みだ。
ガザ地区で食料や医薬品、燃料の不足が深刻化し、支援物資搬入のための一時停戦を求める声が上がる中、ブリンケン米国務長官は3日、イスラエルを訪問しネタニヤフ首相と会談。「人道目的での一時停戦」の必要性を訴えた。ネタニヤフ氏は、「240人以上の人質全員を解放するまでハマスとの一時停戦には応じない」と強硬姿勢だ。イスラエルは、人道支援物資として食料と医薬品の搬入を認めている。しかし、燃料はハマスに軍事目的で使用されることを警戒し認めていない。
ハマスとイスラエル軍の交戦は長引くとみられ、確実に大勢の犠牲者が出ることになる。ガザ地区で人道危機がさらに深刻化するのは必至だ。