
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸では、イスラエル人を狙った銃撃テロや、イスラエル軍による対テロ急襲作戦が繰り返されている。イスラエルとパレスチナの暴力の連鎖は止まらない。(エルサレム・森田貴裕)
ヨルダン川西岸ナブルス近郊の町フワラで19日、洗車場に立ち寄ったイスラエル人2人が、パレスチナ人の銃撃を受け死亡した。銃撃者は発砲前、2人がユダヤ人であることを確認し至近距離から銃撃したという。
その2日後の21日には、ヨルダン川西岸へブロン近郊にあるユダヤ人入植地ベイトハガイ近くの国道60号で、イスラエルの車が銃撃を受け、女性が死亡、車を運転していた男性が重傷を負った。同乗していた12歳の少女は無傷だった。亡くなった女性はベイトハガイ住民で、新学期準備のため娘を連れヒッチハイクでエルサレムへ行く途中だったという。ネタニヤフ首相は21日、銃撃テロ事件の現場を訪れ演説し「われわれは、イランやその代理勢力によって指示され、資金の提供を受けているテロリストの猛攻撃の真っただ中にいる」と語った。
相次ぐテロ攻撃を受け、イスラエル軍は21日、ヨルダン川西岸の軍部隊を増強。同日夜には、西岸地区の各地で対テロ作戦を実施し、銃撃テロの容疑者2人を含むパレスチナ人容疑者32人を逮捕した。
ガラント国防相は、イスラエルの占領地政府活動調整官組織(COGAT)に対し、銃撃テロの容疑者2人の親族数十人のイスラエルへの入国許可を取り消すよう命じた。ベングビール国家治安相や極右政党の閣僚は、現在の安全対策が甘過ぎるとして、ユダヤ人がテロ攻撃を受けることのないようヨルダン川西岸全域にパレスチナ人の移動を制限する検問所を設置するよう求めた。
ネタニヤフ氏は、「イスラエルは、イスラエル人とパレスチナ人の双方にヨルダン川西岸での最大限の移動の自由を認めているが、テロリストはこれを利用してイスラエル人を待ち伏せし、攻撃している」と述べた。
エルサレム公共問題センター主任研究員のヨニ・ベンメナヘム氏は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「暴力激化の理由は、西岸地区に大量の武器やイラン革命防衛隊からの潤沢な資金が存在することだ」と述べた。ベンメナヘム氏によると、銃などの違法な武器は、近隣諸国からヨルダンを通って西岸地区に密輸されているが、最近急増しているという。
エルサレム戦略・安全保障研究所(JISS)の上級研究員で元国家安全保障顧問のヤアコフ・アミドロル少将は、メディアラインで、ヨルダン川西岸でのイスラエル人に対する攻撃の増加は、イランの不満によるものと分析する。シリアでは親イラン民兵組織がイスラエル軍の標的となっており頭打ちの状態で、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの攻撃能力も非常に限定的であることを理解しているイランは、パレスチナの武装勢力に大量の武器や資金を送っているという。パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスやイスラム聖戦の指導者の暗殺をベングビール氏は求めており、イスラエル軍が今後、暗殺作戦を実行する可能性があるという。
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラにあるアラブ・アメリカン大学の大学院社会科学研究院長のアブル・エルエズ博士は、メディアラインで、「イスラエルの極右政権はユダヤ教過激派に支配されており、パレスチナ人を極限まで追い込んでいる」と指摘する。非常に高い失業率に加え、逮捕や暗殺、家の取り壊しばかりを経験してきた平和を知らない世代のパレスチナ人は、絶望を感じており、閉塞(へいそく)感からフラストレーション状態が続いているという。
国連によると、イスラエル・パレスチナ紛争による今年に入ってからの死者数は、これまでにパレスチナ人が210人以上、イスラエル人は35人近くに上り、2005年以降で最多となっている。
ヨルダン川西岸では、毎晩のようにイスラエル軍による対テロ急襲作戦が継続されており、今後もパレスチナ武装勢力とイスラエル軍との衝突が激化する可能性がある。