
核爆発以外ではこれまで最大の爆発事故といわれたレバノンのベイルート湾爆発事故から4日で3年を迎えた。ベイルート湾の倉庫に保管されていた硝酸アンモニウム約550㌧が突然大爆発を起こし、湾岸労働者や周囲の住民ら220人以上が死亡、少なくとも6500人が負傷した。ベイルート港と市内全域が破壊された光景が世界に放映されると、国際社会は衝撃を受けた。(ウィーン・小川 敏)
3年がたっても事故の原因解明は進まず、責任の所在も明確になっていない。国民の間では政府に対する批判や不満の声が高まっている。

事件の検証とその責任について、レバノン当局は明確な態度を示してこなかった。爆発した硝酸アンモニウムはロシア貨物船の積み荷で、港湾当局が2014年に押収し、放置されてきた。ロシアからの輸入品とすれば、外務省、通商省、運輸省などの管轄下に入るが、事故の調査では誰一人として起訴されていない。爆発性の極めて高い危険物質が首都ベイルートの港に長い間放置されていたという事実は国家の安全に関わる問題だ。
事故後、20年8月10日にディアブ首相が辞任に追い込まれたが、事故調査を担当する主任調査員ファディ・サワン氏は調査を中断させられ、最終的にはその立場を失った。後継者のタレック・ビタール氏は元閣僚4人の調査に乗り出したが、議会からの抵抗もあって調査は中断。今年1月、ビタール氏は殺人、放火などの容疑で、検事総長のガッサン・オイダット氏ら8人を提訴した。それに対し、オイダット氏は不服従と「略奪行為」でビタール氏を提訴したが、ビタール氏は辞任を拒否した。
レバノンの国民経済と財政は危機的状況にある。サウジアラビア紙アラブ・ニュースが23年6月30日に報じたところによると、「4年近くにわたる経済の破綻により、通貨価値の約98%が失われ、国内総生産(GDP)は40%縮小し、インフレ率は3桁に達し、中央銀行の外貨準備の3分の2が流出した」。
オーストリア国営放送(ORF)は「レバノン社会は外貨を得ることができる少数の上層部とそうではない大多数の国民に完全に分裂している。多くの若者は未来に希望を持てずに苦悩している」という。
新型コロナウイルスの感染拡大直前の19年、金融危機のさなか、国民の生活状態は悪化し、政府の無能と腐敗に抗議する大規模デモが起きたが、ポスト・コロナの今、国民の間では政府に抗議して立ち上がるといった動きはない。ORFは「レバノン国民は集団的うつ状態に陥っている。自身や家族をどのようにして養うかで頭の中はいっぱいだ」と伝えた。
そのような状況下で、レバノン南部のイスラエルとの国境沿いでは、イスラム教シーア派武装組織ヒズボラがイスラエルに軍事挑発を繰り返すなど緊張が高まっている。
政治と経済の停滞、ヒズボラの軍事活動、レバノンは内外ともに厳しい状況にある。欧州連合(EU)はレバノン政府に爆発事故の調査を求めているものの、大量の難民が殺到することを恐れ、圧力を行使できないという。