大規模な軍事演習実施
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが最近、対イスラエル戦争を想定した大規模な軍事演習を実施した。一方、イスラエル軍もヒズボラ攻撃を想定した大規模な軍事演習を実施した。ヒズボラとイスラエルの軍事的再燃の可能性が高まっている。(エルサレム・森田貴裕)
ヒズボラは5月下旬、レバノン南部で、イスラエル北部の国境地域にある町への攻撃やイスラエル兵士の誘拐などを想定した大規模な軍事演習を実施した。ヒズボラは昨年、精鋭部隊ラドワン部隊の戦闘員数百人をレバノン南部イスラエルとの国境付近に配置した。ヒズボラの指導者ナスララ師が、前線部隊の勢力範囲を拡大するため、ラドワン部隊に国境近くに陣を取るよう命じていた。 軍事装備をアップグレードし、今ではイスラエル軍の基地やイスラエル北部の町を攻撃することが可能となった。
ヒズボラが軍事演習を行った翌週、イスラエル軍は、ヒズボラのラドワン部隊を壊滅させるための陸・海・空軍による大規模な攻撃作戦を想定した軍事演習を実施した。また、イスラエルへ向けて発射される数千発のロケット弾を迎撃する防空能力もテストした。イスラエルにとって課題となるラドワン部隊は、イスラエル軍特殊部隊が対応に当たるという。
ラドワン部隊は特殊エリート部隊で、戦闘員は推定2500人。シリアやイラクの前線で活躍したイラン革命防衛隊(IRGC)「クッズ部隊」から高度な訓練を受けたとされ、ヒズボラの新たな戦力となっている。
ヒズボラは、2011年に始まったシリア内戦で、シリア軍やイランが支援する民兵らと共闘したことで、軍事的能力を大幅に強化した。イスラエル北部国境の安全保障問題を専門とする「アルマ研究教育センター」によると、アサド政権軍によるアレッポ制圧にはラドワン部隊の参加が大きな役割を果たしたという。
複数の戦線に拡大の可能性
イスラエルの国家安全保障研究所(INSS)上級研究員のオルナ・ミズラヒ氏は、イスラエル紙イディオト・アハロノトで、「ラドワン部隊の目的は、イスラエルに侵入しガリラヤ地方一帯を征服することだ」と語る。イスラエル軍は北部国境で発見した侵入トンネルを破壊したが、ヒズボラが新たにトンネルを掘削した可能性もある。ミズラヒ氏によれば、シリアやレバノンのヒズボラ、ガザ地区のパレスチナ武装勢力に対するイランの軍事支援は増加しており、イスラエルとヒズボラの紛争再燃は複数の戦線での戦いにつながる可能性があるという。
イスラエル軍元准将でエルサレム公共問題センター上級研究員のシモン・シャピラ博士は、イスラエル軍の演習中に、ヒズボラは静かに警戒態勢の強化を宣言し、ミサイル部隊を含む戦闘部隊を動員したが、これはイスラエル軍の攻撃に対しては大規模な報復攻撃を行うという合図だったと分析する。
実際に、ナスララ師の後継者でヒズボラ執行評議会委員長のハシェム・サフィディン氏は12日、イランのタスニム通信とのインタビューで、「イスラエルと戦争の場合には、テルアビブに向けてミサイルを発射し、ラドワン部隊がガリラヤに侵攻する」と述べている。
ヒズボラは、精密誘導ミサイル数百発、ドローン(無人機)2000機、長距離および中距離ミサイル5000発、短距離のミサイルやロケット弾6万5000発、迫撃砲14万5000発を保有すると考えられている。イスラエル軍は、次のヒズボラとの戦争で1日当たり数千発のロケット弾がイスラエルへ向けて発射されると推測している。
イスラエル軍のアーロン・ハリバ参謀本部諜報(ちょうほう)局長は先月、ヘルツェリヤのライヒマン大学政策戦略研究所が主催した会議で、「ナスララ師は地域紛争を引き起こす恐れがある」と警告している。
イスラエルは、ラドワン部隊が大きな脅威となる前に、ヒズボラに対し先制攻撃を実施する可能性がある。