イランがここ数カ月で濃縮ウランの保有量を大幅に増やし、核開発を加速させ続けていることが、国際原子力機関(IAEA)の調査報告書で明らかになった。米国は、イランの濃縮ウラン増加でイスラエルの極右政権が予想よりも早く行動する可能性があると懸念する。(エルサレム・森田貴裕)
IAEAが5月31日に発表した報告書によると、イランは2015年の核合意で定めた濃縮度の上限3・67%を超えるウラン濃縮を継続しており、保有する濃縮ウランの総量は5月13日時点で4744・5㌔となり、上限の23倍以上に達した。
濃縮度20%のウラン保有量は470・9㌔で、2月の前回報告書より36・2㌔増えている。濃縮度60%のウランは26・6㌔増え、114・1㌔となった。 ウランの濃縮度が90%以上になると核兵器に転用可能とされる。
前回報告書では、イランの核関連施設で90%に迫る濃縮度83・7%の高濃縮ウランが見つかったとしていた。イラン側はIAEAに対し、60%へのウラン濃縮の過程で意図しない変動が発生した可能性があると主張。この問題について今回の報告書は、「イラン側の説明はデータと矛盾しない。これ以上の質問はない」とし、IAEAは一部核施設の調査終了を決定した。
イランと敵対関係にあるイスラエルは、「IAEAはイランの政治的圧力に屈した」として、イラン核施設の調査終了を批判。ネタニヤフ首相は6月4日、テレビ演説で「イランはIAEAに対しうそをつき続けている」「IAEAがイランの核活動を厳しく取り締まることができず、イランの政治的圧力に屈したことは、最大の汚点だ」と語った。また、「核合意で製造が禁止されている高濃縮ウランが発見されて以来、イランの発言を信用することは限りなく不可能だ」と述べた。ネタニヤフ氏は「 イスラエルはイランの核兵器取得を阻止するためにあらゆる手段を講じる」としている。
イランの核開発を巡っては、18年に米国がトランプ大統領(当時)の決定によって核合意から一方的に離脱し、イラン制裁を再開した。21年にバイデン米政権が核合意の再建を目指し、欧州連合(EU)が仲介するイランとの間接協議を開始したが、昨年夏以来、協議は停滞している。イランは、核兵器開発の意図はなく、すべての原子力活動は平和目的だと主張し続けている。
イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏は、イランがイスラエルや他国を脅かす核兵器を保有するには、少なくとも1年はかかると予測する。核兵器保有には、①濃縮度90%のウラン数十㌔②実証済みの核起爆装置③核弾頭を1000㌔以上の距離まで運搬するミサイルや航空機――が必要という。
イランが保有する濃縮ウランの増加によって、イスラエルはイランへの軍事攻撃を実行可能にするために米国に計り知れない圧力をかけている。 米国は現在のイスラエル極右政権が予想よりも早く行動する可能性があると懸念。中東を管轄する米中央軍のマイケル・クリラ司令官が攻撃開始の意図を測るためイスラエルを頻繁に訪れている。
ベンイシャイ氏によれば、米国は核合意再建に向けイランと暫定合意に達しようとしているが、合意が結ばれた場合、いったんはイランのウラン濃縮や遠心分離機の増設が凍結されるが、イランの都合で数カ月以内にそれらのプロセスが再開され、核兵器開発へと進むことになるという。
国連の元核査察官でイスラエルの国家安全保障研究所(INSS)を率いるデービッド・オルブライト氏によると、イランがウラン濃縮度を90%に到達させた場合、3カ月以内に3~7個の核爆弾を製造できるようになるという。今のところ、長距離ミサイルに搭載する核弾頭はまだ開発されていない。