
シリアのアサド大統領が今月19日、サウジアラビア西部ジッダで開催されたアラブ連盟(21カ国・1機構)首脳会議に12年ぶりに出席し、アラブ各国首脳から温かい歓迎を受けた。米国がシリアへの経済制裁を続ける中、シリア内戦で優位を固めたアサド政権とアラブ諸国との関係改善が急速に進んでいる。(エルサレム・森田貴裕)
アサド氏がジッダに到着した18日、街中にはシリア国旗が掲げられた。首脳会議の当日、アサド氏はサウジの事実上の最高権力者である首相のムハンマド皇太子と握手して肩を抱き合いあいさつを交わした。アサド氏を会議に招待したムハンマド皇太子は首脳会議での演説で、「シリアのアラブ連盟復帰が危機の終結につながる」と述べた。
アサド氏は、首脳会議での演説で、「われわれアラブ諸国の団結、地域の平和、戦争と破壊ではなく開発と繁栄に向けたアラブの行動の新たな段階の始まりとなることを願っている」と述べた。また、「アラブ諸国は今、外国の介入を受けずに地域全体の問題に取り組む歴史的好機を迎えている」と訴えた。
シリアでは2011年、アラブ諸国で始まった民主化運動「アラブの春」が波及し、反政府デモが各地で発生。アサド政権は治安部隊による厳しい弾圧を加えた。アラブ連盟は同年、アサド政権による反政府デモへの武力弾圧を非難し、シリアの参加資格を停止。シリアは孤立した。武装化した反体制派が蜂起し、シリア政府軍との間で武力衝突が発生、長期にわたる内戦へと発展していった。
イランが12年、シリア内戦に介入しアサド政権を支援。反体制派に対抗するための軍事顧問や軍事装備、イスラム教シーア派民兵の派遣、財政支援などを行った。シリアの混乱に乗じ、勢力を拡大したイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」(IS)が14年、シリアやイラクにまたがる地域を支配し、イスラム法に基づいた国家の樹立を一方的に宣言した。
15年には、ロシアもシリア内戦に軍事介入し、ISの掃討を名目に空爆を開始した。米国はISと戦うクルド人民兵組織の人民防衛部隊(YPG)主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)を支援するためシリア東部に米軍部隊を派遣した。16年にはトルコ軍がシリア北部に侵攻。トルコ政府がテロ組織に指定しているYPGに対して攻撃を開始した。トルコはシリアの反政府勢力を支援し、シリア北部地域を事実上支配している。
20年には、反体制派の拠点であるシリア北西部イドリブ県の戦闘を巡り、ロシアとトルコが停戦で合意した。シリア政府軍は、イランとロシアの支援を受け国土の大半を奪還した。大規模な戦闘は収まっているが、現在も散発的な衝突が続いている。シリア内戦ではこれまでに約50万人が犠牲になり、内戦前の人口2200万人の半数が国内外への避難を余儀なくされた。
アサド政権がシリア内戦で優位を固める中、アラブ諸国との関係改善の動きが見られた。アサド氏は22年3月、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問し、現在のムハンマド大統領と会談。アサド氏は内戦が始まって以来初めてアラブ諸国を訪れた。今年2月にはオマーンを訪問し、ハイサム国王と会談した。4月には、サウジのファイサル外相がシリアの首都ダマスカスを訪れ、アサド氏と会談している。アラブ連盟は今月7日の外相会議で、シリアの連盟復帰を決定。アサド政権を支援するロシアは、シリアの連盟復帰を歓迎した。
一方、米国は8日、シリアとの関係を正常化しないと表明。シリアへの厳しい制裁を継続する方針だ。米欧は、アサド政権による反体制派への化学兵器使用や人権蹂躙(じゅうりん)行為などを理由に、シリアに対し経済制裁を科してきた。米国務省のパテル副報道官は18日、「シリアのアラブ連盟復帰は認められるべきではない」と異を唱えた。
モスクワでは10日、ロシア、シリア、イラン、トルコの4カ国の外相会談が行われた。シリアとトルコの関係修復に向けた取り組みを開始することで合意した。シリア内戦で反体制派を支援するトルコは、シリアのアサド政権と厳しく対立してきたが、ロシアの仲介によって対話が実現。イランも、シリアとトルコの対話を支持している。
サウジとイランが3月に中国の仲介によって外交関係の正常化で合意したことで、中東への関与を低減させてきたバイデン米政権の影響力の低下があらわになった。中東地域は、米国主導から中国とロシアによって新たな秩序が構築されつつある。