アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで3月1日、通称「アブラハム・ファミリー・ハウス」が公開される。3大一神教、ユダヤ、キリスト、イスラムの宗教施設を統合したもの。近年、ローマ教皇がアラビア半島を訪問、イスラエルとアラブ諸国が国交を樹立するなど、3宗教間の接近が進んでいる。(ウィーン・小川敏)
2月16日のオープニング式典には、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド大統領が出席、「相互の尊重、理解、多様性が進歩を共有する力だ」とハウスの意義を強調。同時に、「UAEには、さまざまなバックグラウンドを持つ人々が共存してきた誇り高い歴史がある」と述べた。式典には、イスラム学者であり、バチカンの宗教間対話事務所の所長のミゲル・アンヘル・アユソ枢機卿(すうききょう)が参加した。
「シナゴーグ、教会、モスクが一つ屋根の下にある」ハウスの建設は、ハリファ大統領(当時)が18年12月に発表した。
教皇は2019年2月4日にアブダビを訪問した。ローマ教皇のアラビア半島訪問は初めて。エジプト・カイロのアズハル大学の総長、アズハル・モスクのグランド・イマームのアフマド・タイーブ師と共に、「世界における平和的共存のための人類の友愛に関する文書」(アブダビ宣言)に署名した。この文書は、すべての宗教の信徒が兄弟愛への道を歩むための「道標(みちしるべ)」とされ、「アイデンティティーを守る義務」「他者を受け入れる勇気」「誠実な意図」の3点を基本方針とし、神の名の下に狂信、過激主義、暴力に明確に反対している。
ハウスは、西アフリカにルーツを持ち、エジプトとサウジアラビアで育った英国人建築家デービッド・アジャイ氏が設計した。一辺の長さが30㍍の三つの立方体の建物は、それぞれの宗教の特徴、要件を考慮に入れている。ハウスは、アブダビの新しい文化地区であるサーディヤット島にある。
3宗教は「信仰の祖」とされるアブラハムから派生、ユダヤ教を長男とすれば、キリスト教は次男、そしてイスラム教は3男。その3兄弟が連携し、結束した時、高度の文明が広がっていることが分かる。
欧州はキリスト教文化圏と言われるが、3宗教の歴史を振り返ると、欧州の文化は、キリスト教、その土台となったユダヤ教、そしてスペインで花を咲かせたイスラム教がもたらした「アブラハム文化」というべきかもしれない。欧州の地スペインでは、中東のバグダッドと並ぶイスラム教文化が最も栄えた地域だった。
教皇は昨年、バーレーンを訪問。今年2月23日には、バチカンとオマーンが外交関係を樹立した。オマーンはアラビア半島で 3番目に大きな国で、イスラム教が国教だが、同国で働くアジア系外国人労働者の多くは、特にフィリピンから来たキリスト教徒だ。
イスラエルとアラブ諸国との外交関係も改善している。イスラエルが国交を樹立した国はエジプト(1979年3月)とヨルダン(1994年10月)の2カ国だけだったが、トランプ前米政権時代の2020年、UAE、バーレーン、モロッコと国交を正常化、スーダンとも国交樹立で合意した。
バチカン、イスラエルにとって残された最大のハードルはサウジアラビアとの関係改善だろう。アラビア半島最大の国、サウジはイスラム教スンニ派(ワッハーブ派)の盟主だ。そこでは、教会、十字架、キリスト教の宗教的慣習が禁止されている。ローマ教皇がリヤドを訪問したことは一度もない。
そのサウジをクリストフ・シェーンボルン枢機卿(ウィーン大司教)が2月末に数日間訪問した。ムスリム世界連盟のムハンマド・アル・イッサ事務総長の招待に応えたものだ。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3宗教がここにきて急速に接近している。アブダビの「アブラハム・ファミリー・ハウス」はその一つだ。