
イスラエルで昨年12月29日、右派政党「リクード」党首のネタニヤフ元首相率いる新連立政権が発足した。パレスチナに強硬な極右政党や宗教政党と連立を組んだ新政権は、イスラエル史上最も右寄りとされ、イスラエルとパレスチナとの衝突が激化する懸念が強まっている。(エルサレム・森田貴裕)
11月1日のイスラエル総選挙(国会定数120)では、リクードが32議席を獲得し第1党となり、連立を組む極右政党やユダヤ教政党を合わせ過半数の計64議席を確保した。12月29日の国会で承認を得て、新政権が発足した。
新政権では、極右政党の議員らがそれぞれ重要閣僚として入閣した。占領地ヨルダン川西岸の併合やパレスチナ人の追放を主張する極右「オツマ・ユディット」のベングビール党首は、警察に対して広範な権限を持つ国家治安相に就任。極右「宗教シオニズム」のスモトリッチ党首は、財務相と副国防相を兼任し、ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地建設に一定の権限を持つことになった。
約1年半ぶりに政権の座に返り咲いたネタニヤフ首相は12月29日、初の閣僚会議を開き、政権の主要な優先事項を説明。「イランの核開発計画の阻止、治安の回復、アラブ諸国との国交正常化拡大を目指す」と述べた。
バイデン米大統領は同日、ネタニヤフ新政権を歓迎する一方で、「米国は引き続き2国家共存を支持し、それを危うくする政策には反対する」と述べ、パレスチナ強硬路線を取るとされる新政権を牽制(けんせい)した。
193カ国で構成する国連総会は30日、イスラエルによるパレスチナ占領を巡り、オランダのハーグに拠点を置く国際司法裁判所(ICJ)に対し法的見解を示す勧告的意見を出すよう求める決議を賛成多数で採択した。決議案はアラブ諸国が中心となって提案し、長期にわたる占領や入植、聖地エルサレムの地位などについて、国際法などに照らしてどのように解釈すべきか意見を出すよう要請した。中国やロシアなど87カ国が賛成し、イスラエルや米国など26カ国が反対した。日本やフランスなど53カ国が棄権した。
これを受け、ネタニヤフ首相は31日、ビデオメッセージで、「ユダヤ人は自分たちの土地を占領しているわけでも、永遠の首都であるエルサレムを占領しているわけでもない。いかなる国連決議もその歴史的真実をゆがめることはできない。イスラエルは卑劣な決定に拘束されない」と述べ、国連総会の決議を非難した。イスラエルは1967年の第3次中東戦争で、東エルサレムを含むヨルダン川西岸を占領。ヨルダン川西岸は、神がユダヤ人に与えた「約束の土地」だと主張する。
一方、パレスチナ自治政府のアッバス議長の報道官は31日、「イスラエルがヨルダン川西岸で現在も続けているパレスチナ人に対する犯罪の責任を問われる時が来た」と述べた。
国連総会は2003年にも、イスラエルが占領地で建設する分離壁についてICJに勧告的意見を要求した。ICJは翌年に国際法違反と認定したが、勧告的意見は法的拘束力を持たないため、イスラエルは分離壁建設を続けた。
イスラエルでは昨年、テロ攻撃事件が相次ぎ、イスラエル当局はテロの拠点となっているヨルダン川西岸北部でテロ活動の取り締まりを強化した。国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、パレスチナ人によるテロ攻撃で、イスラエル人19人が死亡し、150人が負傷。西岸地区では昨年にイスラエル治安部隊との衝突で、パレスチナ人151人が死亡し、約1万人が負傷した。
テルアビブ大学国家安全保障研究所(INSS)のイスラエル・パレスチナ問題のアナリストであるシュスターマン氏は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「イスラエルとパレスチナは平和には遠く、暴力的な関係に慣れてしまった。今後、事態はさらに悪化する可能性がある」と警告する。
ネタニヤフ氏と極右政党との連立合意には、国際法違反とされるヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地のさらなる拡大や、違法入植地の合法化が含まれている。新政権がパレスチナに対し強硬策を進めれば、武装勢力との衝突激化だけでなく、アラブ諸国との国交正常化が停滞する可能性もある。