
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸ではここ数カ月、テロ活動を取り締まるイスラエル軍とパレスチナ武装勢力との間で衝突が増加している。パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとパレスチナの「イスラム聖戦」の指導者らは、ヨルダン川西岸でイスラエルに対する攻撃を強化するよう呼び掛けている。(エルサレム・森田貴裕)
今年3月から相次いでいるテロ攻撃事件で、数十人のイスラエル人が犠牲となった。イスラエル当局はテロの拠点となっているヨルダン川西岸のジェニンやナブルスなどでテロ活動取り締まり強化を継続しているが、ここ数カ月、イスラム聖戦や8月に出現したナブルスの武装組織「ライオンズ・デン」など武装勢力とイスラエル軍部隊との間で衝突が増加している。
米シンクタンク「民主主義防衛財団(FDD)」のアナリストであるトルズマン氏は、イスラエル紙エルサレム・ポストで、ヨルダン川西岸地域を不安定にしている要因は違法な武器の蔓延(まんえん)にあると指摘する。
パレスチナ治安当局は、パレスチナの人々から多くの支持を得ているライオンズ・デンなどの武装勢力の取り締まりには消極的で、学生など反体制派の逮捕を行っている。そのためイスラエル軍は西岸地区北部の都市で繰り返しテロ掃討作戦を行い、武力衝突につながっているという。イスラエル軍がジェニンやナブルスに踏み込むたびに、銃撃戦が繰り広げられている。パレスチナ当局の影響力が弱まるにつれて、犯罪集団や過激派が勢力を伸長し始めており、特にライオンズ・デンへの外部からの支援が見られ、暴力が増加しているという。
トルズマン氏のデータによれば、ヨルダン川西岸のジェニン、ナブルス、ラマラと、それらの周辺地域でテロ攻撃が増加しており、10月に発生したテロ攻撃が169件でピークに達している。
自治政府のアッバス議長は7日、中東の衛星テレビ局アルアラビーヤのインタビューで、「武力抵抗には反対だが、今後それが変わる可能性はある」と語った。アッバス氏はこれまで一度も武力抵抗を支持したことはない。また、イスラエルとの安全保障協定の取り消しを示唆しても、実行したことはない。自治政府はハマスと対立状態にあるため、西岸地区でのハマスの活動と影響力の拡大を恐れているからだ。
パレスチナ議長選が延期されているが、パレスチナ政策研究センターが13日に公表した最新の世論調査では、議長選が実施された場合、現職のアッバス氏が36%、ハマスのリーダー、ハニヤ氏が53%の支持を得る結果となった。しかし、アッバス氏率いるパレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハ出身のバルグーティ氏は、61%対34%でハニヤ氏を上回る結果となった。また、75%はアッバス氏の辞職を求めた。
一方、ガザ地区では14日、ハマスが創設35周年を祝い大規模な集会を開催した。ハマスのガザ地区指導者シンワル氏は集会で、西岸地区でのイスラエル軍によるハマスメンバーの逮捕を支援したとしてパレスチナ自治政府を非難した。ここ数週間でハマスメンバー約300人が逮捕されている。また、イスラエルのネタニヤフ氏による強硬派宗教政党との新連立は「宗教戦争を求めている」と非難し、「われわれは無数のロケット弾と戦闘員で対応する」と警告した。
イランの支援を受けるハマスとイスラム聖戦の代表者による会談が17日、ベイルートで行われた。ハマスは会談後の声明で、「双方は、イスラエルの占領犯罪に対してパレスチナ全土で抵抗を強化し、活動を活性化させるため協力することで合意した」と述べた。双方の指導者らは、特にヨルダン川西岸にある入植地からユダヤ人が離れるまでイスラエルに対する攻撃を強化するよう呼びかけている。
今後、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地などでイスラエル人を標的としたテロ攻撃が増大する可能性がある。