
イスラエル軍とパレスチナ自治区ガザ地区の武装組織「イスラム聖戦」との間で3日間にわたった攻撃の応酬は、エジプトの仲介により双方が停戦合意に達し、7日夜から停戦に入った。ガザ地区における今回の攻撃の応酬は、昨年5月に11日間続いた紛争以来、最も激しいものとなった。(エルサレム・森田貴裕)
イスラエル軍は今月1日、ヨルダン川西岸北部のジェニンでイスラム聖戦の政治部門の幹部ら2人を逮捕した。これを受けイスラム聖戦は声明で、戦闘員を招集し報復を警告した。
イスラエルやヨルダン川西岸では3月下旬以降に相次いだテロ攻撃事件で計19人のイスラエル人犠牲者を出し、イスラエル当局はテロ活動の拠点となっているジェニンなどでテロリスト掃討作戦を強化していた。そのため西岸ではこれまでに、イスラエル軍と過激派らとの衝突で、パレスチナ人55人以上が死亡している。
イスラエル軍は、イスラム聖戦による報復攻撃を警戒し、ガザ地区に隣接する地域を封鎖。イスラエル軍は5日、ガザ地区近郊のイスラエル住民を避難させ、イスラム聖戦がテロ攻撃を企てているとの情報から、ガザ地区でイスラム聖戦を標的とした軍事作戦を開始。予備役2万5000人を招集した。
イスラエル軍報道官のコハブ准将によると、軍は3日間でガザ地区の約170カ所を攻撃。地下トンネル、武器庫、ロケット発射台など軍事拠点を破壊し、司令官2人を含む戦闘員10人以上が死亡した。ガザ地区からはイスラエル南部や中部テルアビブ、エルサレム近郊などに向けておよそ1100発のロケット弾が発射された。イスラエル軍の防空システム「アイアン・ドーム」が97%の成功率でロケット弾380発を迎撃し、イスラエル側での死傷者は確認されていない。
パレスチナ当局によると、ガザ地区では子供15人と女性4人を含むパレスチナ人44人が死亡し、360人以上が負傷した。イスラエル軍は、ガザ地区から発射されたロケット弾のうち200発はガザ領内に落下し、パレスチナ民間人に犠牲者を出したと主張している。
イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏は、「イスラエル軍の情報は完璧で、空軍機が発射したミサイルは正確に標的を捉え、被害は最小限に抑えられた。イスラエル軍の砲火によるパレスチナ民間人の死傷者は全体の3分の1以下にとどまり、これは、死傷者の半数が民間人だった以前の作戦と比較すると、注目に値する成果だ」と評価した。通常イスラエル軍は、ガザ地区のビルなど建物を攻撃する前には、住民に警告を発し避難を呼び掛けている。
ベンイシャイ氏は、「イスラエル軍の先制攻撃によって、イスラエル側が優位に立つことができたのは、作戦計画を開示しなかったラピド首相とガンツ国防相の功績であり、両者に拍手を送りたい」と述べた。今回の作戦中、イスラム聖戦側が使用していたロケット発射台の数は少なく、ドローン(無人機)による攻撃もなかったことで、イスラエル軍の防空システムは理想的な環境で有効的に機能し、軍隊にとっては良い演習になったという。
一方、ガザ地区を実効支配しているイスラム組織ハマスは、今回の交戦には参加していなかったが、報道によると、ハマスはイスラム聖戦に対し停戦に同意するよう圧力をかけていたという。エジプトの仲介によるイスラエル軍とイスラム聖戦の停戦後、ハマスは声明を出し、「レジスタンスの戦いは継続する」と述べた。
西岸地区のパレスチナ人を扇動し、長期にわたってイスラエルへのテロ攻撃を実行させようとしてきたハマスは、イスラエル殲滅(せんめつ)という究極の目標を変えてはいないが、優先順位を変更したようだ。ハマスは、ガザ地区の復興に加え、西岸地区で勢力を強めながら、アッバス議長率いるパレスチナ自治政府とその支持母体であるファタハを可能な限り弱体化させることを最優先事項にしているという。
汚職にまみれたパレスチナ自治政府は、テロの温床となっている西岸地区ナブルスやジェニンでも主導権を失いつつある。イスラエルとパレスチナの和平交渉が停滞している中、唯一の交渉相手とされているパレスチナ自治政府は、パレスチナ市民の支持を回復するために汚職体質を改める必要に迫られている。