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シリア・イラクでISの攻撃激化

刑務所・軍基地を襲撃

過激派組織「イスラム国」(IS)とクルド人勢力の戦闘を受け、避難するシリアの人々=1月22日、シリア北東部ハサカ(AFP時事)

内戦が続くシリアの北東部ハサカ県で1月20日夜、過激派組織「イスラム国」(IS)の幹部を含む戦闘員約5000人が収容されている刑務所がISの襲撃を受けた。その数時間後には、隣国のイラクでも軍の施設が襲撃を受けた。シリアやイラクで活動を活発化させているISの攻撃が激しさを増している。(エルサレム・森田貴裕)

軍事組織を再編か

ハサカにあるクルド人主体の「シリア民主軍(SDF)」が管理するグワイラン刑務所を20日夜、収容されている仲間を解放しようとしたIS戦闘員100人以上が襲撃した。一部報道によると、刑務所の外から掘られたトンネルを使用して戦闘員数十人が刑務所内に侵入したという。襲撃者らは、刑務所内の武器庫を占拠し、収容されていた囚人数千人のうち数百人を解放した。SDFのクルド人部隊は刑務所を取り囲み、IS戦闘員との間で激しい戦闘が続いた。SDF報道官は26日、「全てのIS戦闘員が投降し、刑務所を完全に奪還した」と述べた。

英国に拠点を置く「シリア人権監視団(SOHR)」によると、ISとクルド人部隊との7日間の戦闘で、クルド人部隊の79人、IS戦闘員246人、民間人7人の計332人が死亡した。2019年3月にISがシリア東部バグズ村で最後の拠点を失って以来、最大の襲撃となった。

SOHRによると、シリアでは昨年、IS戦闘員によるSDFの部隊を標的とした攻撃は342回行われており、少なくとも600人が死亡した。対するSDFは昨年、IS掃討作戦を115回実施し、90を超えるテロ細胞を解体、約800人の戦闘員を逮捕している。

一方、イラク東部のディヤラ州では21日未明、IS戦闘員がイラク軍前哨基地を襲撃し、兵士11人が死亡した。政府軍当局者によれば、攻撃の手段は、それまで即席爆発装置(IED)や狙撃に限定されていたが、政府軍を直接襲撃したのは今回が初めてだという。イラクでは今回の襲撃以来、政府軍や警察部隊、親イラン民兵組織「人民動員隊(PMF)」がIS戦闘員の掃討を行っている。

イラク内務省のメディア担当者のサアド・マアン将軍は26日、国営メディアで「23日に開始したIS掃討のための軍事作戦は、目標を達成した」と述べた。各地ではISとの間で小規模のゲリラ戦が続けられており、政府軍側が優勢だという。

イラクでは、政府軍が2017年にISとの戦争に勝利を宣言して以降も、残党によるテロ攻撃が断続的に行われている。首都バグダッドでは、市場などが狙われ、昨年7月にはISによる自爆テロで民間人35人が死亡した。また、昨年のISによる257回以上の攻撃で、イラク政府軍やクルド人治安部隊などの兵士387人が死亡した。

フランスのニュースサイト「フランス24」によると、イラク人アナリストのイマド・アロウ氏は、「今回の襲撃事件は、ISがイラクで軍事組織の再編を図ろうとしていることを示している」と述べた。

シリアの刑務所襲撃事件を受け、イラクのカディミ首相は、テロ対策部隊にイラク国内にある刑務所の大規模な検査を命じた。22日に始まった検査は30日まで続けられた。
イラクのカシム・アルアラジ国家安全保障顧問は30日、IS対策でイラク軍の訓練任務を行う北大西洋条約機構(NATO)軍のマイケル・アンカー司令官と会談し、イラクの刑務所に収容されている幹部を含むIS戦闘員を帰国させることの必要性を強く訴えた。「IS戦闘員を帰国させることができない場合、深刻な脅威につながる可能性があり、別の地域に移さなければならない」と述べた。

イラクに駐留する米軍主導の有志連合部隊の戦闘任務が昨年で終了し、航空支援などを失ったISとの戦いは、さらに危険を増して長引く可能性がある。

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