「免疫低下も」専門家が警告
新型コロナウイルスの第5波が急拡大しているイスラエルでは今月3日、60歳以上の人や医療従事者を対象に、世界で初めてとなる4回目のワクチン接種が開始された。17日の時点で53万人以上がすでに4回目接種を受けた。しかし、一部の専門家は、ワクチンの接種回数が多過ぎると、将来発生する変異株に対処する免疫系の機能が低下する可能性があると警告する。
(エルサレム・森田貴裕)
ベネット首相 経済と市民の健康守る
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ハイファにあるテクニオン・イスラエル工科大学の免疫学のドロン・メラメド教授は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「ワクチンの投与量が多過ぎれば免疫系の疲労を引き起こす」と強調。ワクチンの4回目接種を行うと免疫システムは非常に特殊化され、新たな変異株への対応がはるかに困難になる可能性があるという。インフルエンザと同様に、ウイルスは絶えず変異し進化していると指摘する。世界中の免疫学者の間では、「繰り返されるワクチン接種は最終的に有害である可能性がある」と結論付ける傾向にあるという。メラメド教授は「イスラエル政府は、免疫学者の意見を考慮せず、免疫の専門家でない医師や他の人々の意見を偏重している」と述べた。
一方、エルサレムにあるヘブライ大学付属ハダサ医療センターの免疫学の専門家であるロニット・カルデロン・マルガリット教授は、メディアラインで、「ワクチンの4回目接種がウイルスの感染拡大を阻止するのに役立つかどうかについてはまだ十分な情報がない」と指摘。3回目のワクチン接種を受けない人々は、その後もワクチン接種を受けない傾向があるという。「オミクロン株の感染が拡大する前に国境を閉鎖したことで、数週間の時間稼ぎができた。その時間を使って4回目接種の研究を行うのはいい選択だった。政府には4回目接種を終えた人々の経過観察をし続ける責任がある」と述べた。
イスラエルでは昨年11月下旬、新型コロナの変異株「オミクロン株」の感染者が確認された。政府はオミクロン株の流入を防ぐため、外国との往来を原則禁止としたが、今月3日には1日当たりの新規感染者数が1万人を超えるなど、イスラエル国内でコロナ感染が急拡大した。しかし、政府は7日、経済活動に悪影響がある外国との往来に関する規制を解除すると発表した。9日には、ワクチン接種または感染歴があることを条件として、コロナ感染状況が中程度としている199カ国からの外国人旅行者の受け入れも再開した。
ベネット首相は、「経済を回しながら、一方で市民の健康も守る」として、市民へのワクチン接種を強く呼びかけ、重症化する恐れのある高齢者に対して4回目接種を実施するなど、厳格な外出制限などを行うことなく、コロナ感染対策を進めている。ベネット氏は13日、1日の新規感染者数が5万人近く確認されたことを受け、「数日以内に感染者数が30万人を超えると予想される」と懸念を述べ、小児病院や小児病棟に「大規模な感染の波」に備えるよう求めた。
教育省によると16日、約20万人の児童と小学校職員が、新型コロナに感染しているか、オミクロン株の感染者と密接に接触しているとして隔離中という。これまで1年生から6年生までの児童6万1000人以上が初回のワクチン接種を終えた。
保健省によると、イスラエルの人口約930万人のうち、これまでに600万人以上が2回目接種を終え、439万人以上が3回目接種を受けている。16日の時点での感染者数は約25万9000人。そのほとんどがエルサレム市内に居住しており、イスラエル中部地域にあるユダヤ教超正統派の居住区ブネイブラクがそれに続く。1日の新規感染数の平均は4万人以上と最多を更新し、病院で治療を受けている重症者数は400人以上と5日間で2倍となった。昨年12月に50人が死亡し、今年に入り54人が死亡した。イスラエルではパンデミックが始まって以来、累計死者数は8319人に達している。