2026年1月、アフリカ大陸の南北から相次いで人類史を書き換える重要な発見が報告された。一つはモロッコで発見された約77万年前のヒト族の化石、もう一つはマラウイで見つかった約9500年前の火葬跡だ。これらは生物学的な起源における「空白の期間」と、狩猟採集社会での「精神性の複雑さ」という二つの謎に新たな光を当てている。
(長野康彦)
北アフリカ・モロッコのカサブランカにあるトマス採石場で発見されたのは、約77万3000年前のものとされるヒト族(ホミニン)の下顎骨や大腿(だいたい)骨などの化石だ。これはアフリカで発見されたこの時期のヒト族の化石としては初の例となる。
この発見が重要なのは、人類進化における巨大な「空白」を埋める可能性があるからだ。アフリカでは約100万年前までの化石は多いが、その後、約50万年前までの間は化石が見つかっておらず、実態がほとんど分かっていなかった。今回の発見は、その空白期間の中心に位置付けられる。
この時期は、現生人類、ネアンデルタール人、デニソワ人という三つの系統に分かれる直前の共通祖先、「祖先X」が生きていた時代と重なる。遺伝学的証拠では祖先Xの存在は約55万年から76万5000年前と推測されているが、その正体ははっきりしていない。今回の化石は、ホモ・エレクトス(原人)に似た原始的な特徴を残しつつも、現代人への進化の兆しを見せており、進化の謎を解明する重要な手掛かりとなる。
一方、アフリカ南東部のマラウイでは、同国北部のホラ山遺跡で、約9500年前の火葬跡が発見された。被葬者は身長150㌢弱の女性と推定されている。人類最古の火葬の痕跡としては、オーストラリアのムンゴ湖で発見された約4万年前の遺骨が挙げられるが、完全な焼却ではなく部分的なものであったため、今回のマラウイでの発見が現在、最も「確実な」人類最古の火葬の証拠となる。
米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」によると、現場の分析からは、約30㌔もの枯れ木が集められ、500度以上の高温で長時間にわたり火がたかれた痕跡が見つかった。通常の埋葬ではなく、これほどの労力をかけて火葬を行った背景には、死者に対する何か「複雑な信念」があったと推測されている。
さらに謎を深めるのが、遺体の状態だ。骨の分析から、火葬前に遺体の肉が取り除かれていたこと、そして頭蓋骨や歯が一切見つかっていないことが判明した。これは、火葬の前に頭部が意図的に持ち去られた可能性が高いことを示唆している。これは追悼のための複雑な儀礼だった可能性があると研究チームは分析している。
ホラ山遺跡では他にも埋葬例が見つかっているが、火葬されたのはこの女性一人だけだった。なぜこの女性だけが特別扱いされたのか。彼女の生前に何か特殊な事情があったのか。狩猟採集民が火葬という形式で死者を埋葬するのは極めて異例で、研究者の注目を集めている。
モロッコの発見は、人類が生物としてどのように現在の姿になっていったのかという進化の道筋を照らし出した。一方、マラウイの発見は、都市や文明が生まれるはるか以前から、人類が死者を悼み、高度な儀礼を行っていたことを浮き彫りにした。
人類は約700万年前、アフリカに現れ、われわれの直接の祖先であるホモ・サピエンスも約20万年前、アフリカに出現した。これら二つの発見は、アフリカという大陸が、単なる人類発祥の地であるだけでなく、その進化の過程や、精神形成の複雑なプロセスの舞台であったことを教えてくれている。






