レバノン各地で2日連続で通信機器が相次いで爆発し、多数の死傷者が出た。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは、敵対するイスラエルによるものと断定し、報復を宣言。イスラム組織ハマスとの連帯を示すヒズボラとイスラエルの攻撃の応酬が激しさを増し、全面戦争の懸念が高まっている。(エルサレム森田貴裕)
レバノン各地で17日、ヒズボラのメンバーらが連絡手段として使用しているポケットベル(ポケベル)型の通信機器が相次いで爆発を起こし、2800人以上が死傷した。イランの駐レバノン大使も爆発で軽傷を負った。また、隣国のシリアでも通信機器の爆発があり、英国に拠点を置く「シリア人権監視団(SOHR)」によると、少なくとも7人が死亡、14人が負傷した。翌18日もレバノン各地でトランシーバー(無線機)が相次いで爆発を起こし、多数の死傷者が出た。レバノン保健省によれば、2日連続の爆発で、少なくとも計37人が死亡、3000人以上が負傷した。
ヒズボラの最高指導者ナスララ師は19日、テレビ演説を行い、数千台の通信機器を使った爆弾攻撃は、イスラエルによる「大規模なテロだ」と主張。「一連の攻撃は、宣戦布告に相当する」とイスラエルを非難し、「攻撃で罰を与える」と報復を宣言した。また、「われわれは大きな打撃を受けたが、イスラエルがハマスとの戦争を終わらせるまで戦闘を続ける」と語り、「イスラエルは今後も、抵抗の枢軸からの激しい攻撃にさらされるだろう」と警告した。
中東のメディアによると、ヒズボラは2月、イスラエルの対外情報機関モサドからGPS機能を使った位置情報の追跡を回避するため、携帯電話の使用を避け、受信専用のポケベル型通信機器に切り替えていた。また、無線機も5カ月前に導入していた。カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは、爆発した無線機は日本の通信機器メーカーのアイコムV82モデルだったと伝えた。ただ、この無線機は2014年に製造・販売が中止されており、模造品の可能性がある。
米メディアによると、爆発したポケベル型通信機器は、イスラエルがハンガリーに設立したダミー会社のBAC社が製造していたという。台湾メーカー「ゴールド・アポロ」社の商標使用許可を得ていたこの会社で、ヒズボラ向けのポケベルにのみ高性能爆薬を仕込んだバッテリーが組み込まれたという。
イスラエルはヒズボラとの全面戦争に突入する際に先制的に打撃を与えるため、ヒズボラの戦闘員らが携帯する通信機器の爆破を計画したという。しかし、ヒズボラ側で計画が見破られる動きがあったため、爆破を急いだ。イスラエルのネタニヤフ首相が「通信機器の爆破作戦」を承認したのだという。イスラエル側は爆発への関与を明らかにしていない。
ネタニヤフ首相は18日、ビデオ声明で、「従来言明している通り、われわれは北部の住民を安全に帰還させる」と強調した。イスラエル軍は18日、ヒズボラへの攻撃強化のため、パレスチナ自治区ガザで作戦を終えた部隊を北部に再配備すると発表。ガラント国防相は、北部の空軍基地を訪れ、兵士らに対し「戦争は新たな段階に入った。重心は北に向かって移動している」と語った。
イスラエル軍は19日、レバノン南部にあるヒズボラのロケット弾発射拠点や武器貯蔵施設などを標的に大規模な空爆を実施。翌20日には、レバノンの首都ベイルートを空爆し、ヒズボラの精鋭「ラドワン部隊」のアキル司令官を含む上級指揮官ら約10人を殺害した。21日にも、レバノン南部のヒズボラのロケット弾発射拠点や軍事施設など約300カ所に空爆を行った。
一方、ヒズボラは21日深夜、イスラエル北部のラマト・ダビド空軍基地やハイファにある軍事産業施設などに向けてロケット弾115発以上を発射し激しく攻撃。レバノンでの通信機器の一斉爆発に対する最初の報復だと主張した。イスラエル軍の防空システムが大半を迎撃したものの、一部がハイファ市郊外の住宅や車などを直撃し、負傷者が出た。
イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏によると、ヒズボラはこれまでにない強力な軍事力で反撃に出る恐れがあるという。
イスラエルはヒズボラとの全面戦争の準備を整えており、レバノンへの地上侵攻の可能性がある。