イスラエル首相、ガザ「回廊」への軍駐留継続 停戦近くない

1日、イスラエルのテルアビブで、人質解放のためイスラム 組織ハマスとの合意を政府に求める大規模デモの参加者 (EPA時事)

イスラム組織ハマスの壊滅を目指すイスラエルのネタニヤフ首相は9月初め、記者会見を2回開き、パレスチナ自治区ガザ南部とエジプトの境界沿いの「フィラデルフィ回廊」と呼ばれる緩衝地帯について、安全保障上不可欠だとして、イスラエル軍の駐留を続けると主張した。人質解放と停戦を巡る交渉に向けては、ハマスとの溝は依然として埋まらない状況だ。(エルサレム森田貴裕)

ネタニヤフ氏は4日、外国メディアを対象にした記者会見を開き、「イスラエルの最初の戦争目標は、ハマスの軍事力と統治能力を破壊すること。2番目は人質を解放すること、3番目はガザ地区が二度とイスラエルに脅威を与えないようにすることだ。そして、これらの目標を全て達成するには、イスラエルによるフィラデルフィ回廊を支配することによってのみ可能だ」と語り、回廊の恒久的な管理がイスラエルの安全保障にとって不可欠だとして、軍の駐留を続けると改めて強調した。

ネタニヤフ氏は、イスラエル軍が一度回廊から撤退すれば、戻ることはできないとして、「われわれは(米国が提示した停戦案の第1段階の)42日間は撤退しない。軍部隊はそこにいる」と述べた。エジプト側から数十の地下トンネルを使って武器や弾薬などがガザ地区に運び込まれるのを防ぎ、再武装させないためにも国境の監視が必要だと主張。また、人質がイランやイエメンに送られる可能性にも触れ、回廊を守りハマスに圧力をかけ続けることが人質救出につながると強調した。

回廊への軍駐留継続に反対しているガラント国防相や軍参謀総長らは、軍が撤退した後でも回廊を奪還できると強調。軍の一時撤退さえも除外してしまえば、人質を生還させる可能性は完全になくなると主張する。

ネタニヤフ氏は、昨年11月の1週間の停戦で、人質100人以上が解放されたのは、「われわれのガザ地区への侵攻と軍事的圧力の結果にすぎない」と述べた上で、「イスラエル軍がラファを離れ、フィラデルフィ回廊を離れれば、圧力をかける手段はなくなり、人質は救出できない」と強調した。

ネタニヤフ氏は5日、米メディアで、前日の米当局者の「イスラエルとハマスの停戦交渉の90%は合意されている」という発言について、「それはまったく不正確だ。残念ながら合意には近づいていない」と指摘。ハマスは何についても同意していないとして、「この戦争の終結を阻んでいるのはハマスだ。人質の解放を阻んでいるのも、人質6人を冷酷に銃弾で撃ち殺したのもハマスだ」と非難した。ガザ地区でのイスラエル軍の作戦によって8月末に遺体で発見された人質6人は、収容されていた地下トンネルに軍部隊が到着する直前に銃殺されたとみられている。当局者によれば、ハマスは拘束している人質の解放と引き換えにイスラエルが収監している多くのパレスチナ人囚人の釈放を要求しているが、新たな条件を追加してきたという。

一方、ハマスの交渉団を率いるハリル・ハイヤ氏は5日、「ネタニヤフ氏がガザ地区での停戦合意を妨害し、言い逃れや欺瞞(ぎまん)的な策略を使っている」と批判した。停戦や人質解放に向けた交渉を巡って、ハマスはイスラエル軍のガザ地区からの完全撤退を求めている。

イスラエル紙ハーレツは4日、連立政権関係筋の話として、ネタニヤフ氏は連立を組む対パレスチナ強硬派の極右政党からの圧力を受け、ハマスとの停戦交渉に合意しないことを決めたと報じた。政権崩壊を恐れるネタニヤフ氏は、極右政党の主張を受け入れざるを得ない。関係筋によれば、閣僚の誰もが政治的生き残りを懸けて連立政権存続の方向に動き、ネタニヤフ氏が停戦交渉を避けているのを知る者でさえ目をつぶっている状況だという。

商都テルアビブで7日、ガザ地区での早期の停戦と人質解放を求め数十万人が集まり、先週に続き大規模な抗議デモが行われた。昨年10月7日にハマスとの戦争が始まって以来、テルアビブなど都市部では毎週末、抗議デモが行われている。

対パレスチナ強硬派の極右連立政権下では、ハマスとの溝は埋まる気配がない。停戦合意には程遠い実情で、ガザ地区での戦争が長期化する恐れがある。

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