イスラエルがイランやその代理勢力による攻撃を警戒する中、イランの革命防衛隊は対イスラエル攻撃の先延ばしを示唆した。一方、レバノンのイラン系イスラム教シーア派組織ヒズボラは25日、イスラエルに大規模攻撃を開始したと発表した。イスラエル北部で緊張が増している。(エルサレム森田貴裕)
ヒズボラは25日、イスラエル北部にある軍事施設に向けてドローン(無人機)やロケット弾数百発を発射した。ヒズボラは声明で、「作戦の第1段階は成功した」と主張した。ヒズボラは、イスラエル軍による7月末の首都ベイルートへの空爆で軍事部門最高幹部が殺害されたことを巡って報復を宣言していた。
イランの革命防衛隊報道官は20日、同国でのイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏暗殺を受けてイスラエルに宣言していた報復について、「時期を決めるのはわれわれで、長期間待つ可能性がある」と述べ、攻撃の先延ばしを示唆した。イスラエルは、ハニヤ氏殺害への関与を肯定も否定もしていない。報道官はまた、イスラエルに対する報復攻撃に関し、「以前の作戦と同様のものではないかもしれない」として、違う形を取る可能性を示した。イランは4月、イスラエル軍によるとみられる在シリア・イラン大使館領事部の建物空爆への報復として、史上初めてイスラエルの軍事施設を標的にドローンや弾道ミサイルなどで大規模な直接攻撃を実施した。
情勢不安のため中東訪問を延期していたブリンケン米国務長官は19日にイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、人質解放交渉の必要性を強調した。米国は先に、イスラエルとイスラム組織ハマスとの隔たりを埋める「橋渡し案」を提示している。ブリンケン氏によると、ネタニヤフ氏は米国の提案を受け入れた。米国はハマス側にも受け入れを強く求めるが、ハマス幹部は「イスラエルが受け入れたという米国案は、われわれが同意したものとは違う」として反発。ハマスの最高指導者に新たに就任したシンワル氏は、パレスチナ自治区ガザの停戦交渉に関して妥協しない姿勢を示しており、交渉が進展するかどうかは疑わしい。
イスラエルのメディアは、イランとヒズボラは既に報復攻撃を実行している可能性があるとの見方を報じた。イスラエル中部テルアビブで18日夜、バックパックを背負って歩いていたパレスチナ人の男が自爆する事件が発生した。男は死亡し、近くを電動スクーターで通り掛かったイスラエル人男性が負傷した。
警察は、誤爆とみられる現場近くにはシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)があり、標的になっていた可能性を指摘。治安当局は、男がイランまたはヒズボラから指示を受けた可能性があるとしている。ハマスとイスラム聖戦が共同で自爆攻撃の犯行声明を出したが、男はどちらのテロ組織とも関係がなかったと報じられた。
イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏によると、米国はここ数週間で、イランやその代理勢力による大規模攻撃に備え、中東での戦力を増強した。また、イランに対し地域紛争を引き起こすような形でイスラエルに危害を加えないようメッセージも伝えた。前回と異なる点は、米国は、イランがイスラエルを攻撃すれば、イスラエルだけでなく米国からも軍事的打撃を受ける可能性があり、制裁も科されるだろうとイランに明確に伝えたことだという。
バイデン米政権は、イスラエルに対し軍事支援と引き換えにイランへの先制攻撃を避けるよう要求し、イランやヒズボラが攻撃してきた場合は、地域紛争に至らないような相応の措置で対応するよう求めている。また、米大統領選挙前にガザ地区での戦争終結を目指している。戦争を終わらせればハリス副大統領が選挙に勝つ可能性が高くなるからだ。
ネタニヤフ氏とシンワル氏の両者の課題は、ガザ地区での停戦と人質解放の交渉妥結に向けて柔軟性を示すことができるかどうかだ。