南ア総選挙、与党ANCの人気に陰り 台頭する極左勢力

新興5カ国(BRICS)首脳会議で記者会見する南アフリカのラマポーザ大統領(2023年8月24日、ヨハネスブルク UPI)
南アフリカで今月29日、民主化以降7回目の総選挙が行われる。1994年以来政権を握ってきたアフリカ民族会議(ANC)の人気にも陰りが見え、過半数割れの可能性も指摘されている。(長野康彦)

南アフリカでは、白人政権時代のアパルトヘイト(人種隔離政策)に終止符を打ち、94年の歴史的な全人種参加の総選挙が行われてから今年で30年を迎える。カリスマ的なネルソン・マンデラ大統領に続いて、ターボ・ムベキ大統領、ジェイコブ・ズマ大統領、そして現在のシリル・ラマポーザ大統領と、ANCが過半数を獲得し与党としての地位を保ってきた。故マンデラ氏の下でアパルトヘイトとの闘いを主導し、主に黒人層から圧倒的な支持を受けてきた同党だが、高失業率や悪化する治安など、国内問題を背景に国民の不満が募る。

昨年のデータでは失業率は32%に達し、経済的不平等は一向に改善されぬままだ。殺人発生率(人口10万人当たりの発生件数)は33.96件(2021年)で、世界最悪レベルの状況が続いている。ちなみに日本は0.2件。与党ANCは、貧困レベルは低下し、国民の大部分がまともな家に住めるようになり、医療へのアクセスも改善されたと述べるが、説得力に乏しい。各種調査では過半数割れの予測も出ている。

 白人やカラード(混血の国民層)に強い支持基盤を持ち、黒人層の支持も広がりつつある野党第1党の民主同盟(DA)は、「南アフリカ救出計画」と銘打ち、200万人の雇用創出や停電など不安定な電力供給の改善、暴力犯罪の半減、汚職撲滅、全国民への質の高い医療の提供などを公約に掲げる。現在、国民議会(下院)の定数400のうちANCが230を占め、DAは84にとどまっているが、今回の選挙でどれだけ議席を伸ばせるかに関心が集まる。

近年、黒人層を中心に急速に支持を拡大し、下院44議席を獲得して第三勢力となっているのが「経済的解放の闘士(EFF)」だ。ANCの青年組織に所属していたジュリアス・マレマ氏が、白人等へのヘイトスピーチで2回有罪判決を受けたことからANCを除名され、13年に設立したもので、公然とマルクス・レーニン主義、反資本主義、反帝国主義を掲げる極左政党である。

同党はANCがアパルトヘイトの人種的経済的不均衡を是正していないと主張し、鉱山、銀行など経済主要部門の国有化、また国民へ再分配のための土地収用など、急進的な経済解決策を掲げ、若者や貧困層を中心に支持を集めている。マレマ氏は土地収用に関する発言で、「どんな手段を使っても土地を接収する。白人の虐殺を求めているのではない。少なくとも今のところは」と暴力的手段に含みを持たせている。

またガザでの戦争を巡るスピーチで、政権を取ったらハマスに必要な武器を供給すると語るなど、反イスラエルの立場を鮮明にしている。リベラルの仮面を被(かぶ)ったマルクス主義が世界各地に再浸透して社会的分断を深める中、あからさまな共産主義勢力がここに誕生し、今後の南ア情勢の不安定要素になる可能性をはらんでいる。

総選挙は上院に当たる全国州評議会(定数90)と下院に当たる国民議会(定数400)の同時開催選挙で、有権者は政党に投票し、国民議会で過半数を獲得した政党の党首が大統領に選出される。アフリカ唯一の20カ国・地域(G20)参加国、南アの次の舵(かじ)取りは誰になるのか注目される。

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