イスラム組織ハマスの壊滅を掲げるイスラエルは、ハマスの最後の拠点となったパレスチナ自治区ガザ最南部の都市ラファへの地上侵攻の計画を進めている。国際社会はラファの人道危機の悪化を警告。イスラエルを支援する米国は、民間人の犠牲者が拡大する恐れがあるとして大規模な地上作戦の回避を求めている。
(エルサレム森田貴裕)
イスラエルは、大規模な地下トンネル網があるとされるガザ地区南部ラファにハマスの指導部が潜伏しているとみて、地上作戦の準備を進めている。ネタニヤフ首相は、「ラファに残るハマスの大隊を壊滅するには地上侵攻以外に方法はない」と強い決意を示し、作戦を実施する構えだ。
バイデン米大統領は18日のネタニヤフ氏との電話会談で、ラファから住民を安全に退避させる信頼できる計画が示されていないとして、ラファへの地上侵攻計画に「深い懸念」を伝えた。また、代替案を協議するためイスラエル代表団を米ワシントンに派遣するよう要請した。ネタニヤフ氏はこれに応じたものの、ラファへの侵攻回避で一致できるかどうかは不透明だ。
中東歴訪中だったブリンケン米国務長官は22日、当初の予定には入っていなかったイスラエルを訪れ、ネタニヤフ氏ら戦時内閣閣僚と会談。イスラエルとハマスの戦闘の休止や人質の解放を巡る交渉について協議した。ハマスに拘束されている人質の家族とも会ったブリンケン氏は、人質解放を確実にするために、あらゆる手段を講じるよう求めた。イスラエルのメディアによると、ハマスが要求しているガザ地区北部の住民の帰還など妥協案を提示したという。ブリンケン氏は仲介国のカタールに対し停滞していた休戦交渉を進めるためにハマスへの圧力を強めるよう求め、交渉は18日にカタールで再開した。
ネタニヤフ氏は、ブリンケン氏に対し「ラファに侵攻し、残りのハマスの大隊を排除しない限り、勝つ方法はない。米国の支援を受けて作戦を実行することを望むが、そうならない場合、イスラエルは単独で実行する」と伝えたという。ブリンケン氏は、ラファへの攻撃はイスラエルの孤立化につながり、安全保障に影響を及ぼす恐れがあると警告する。
ラファにはイスラエル軍の退避指示に従ってガザ地区北部などから避難してきた約150万人が集まっている。ブリンケン氏は、ラファへの侵攻について、「大規模な地上作戦が実施されれば、さらに多くの民間人が犠牲になる」と指摘する。
国連世界食糧計画(WFP)は18日、ガザ地区の食料安全保障に関してまとめた報告書「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」を公表し、ガザ地区人口の88%が食料不足に直面しており、北部では飢餓が「差し迫っている」と警告した。報告書によれば、今後、ラファへの地上作戦を含め戦闘が激化した場合、人口の半数に当たる111万人が最も深刻な壊滅的飢餓「フェーズ5」に陥ると予測される。北部の30万人は5月までに深刻な飢餓に陥るとみられており、南部も7月までに飢餓に陥る可能性があるという。
報告書は、支援機関がガザ地区各地への立ち入りが認められ、民間人に食料や水、栄養製品などを届けられるようになれば、飢餓の危機を食い止めることができるとして、人道的停戦の必要性を訴えている。
WFPは、ガザ地区で1日に少なくともトラック300台分の食料が必要だとし、特に北部で食料を配給する必要があると訴える。現在、支援物資を載せたトラック200台前後がガザ地区に入っている。ハマスとイスラエルの交戦前は、1日500台だった。
ハマスがガザ地区に搬入された人道支援物資を略奪しているとみられ、SNS上には銃で武装した戦闘員らが支援物資を積んだトラックを強奪する様子が映っている動画が投稿されている。
イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏は、ガザ地区の民間人に食料や水、医療物資などの必需品の供給を確実にするためには、直ちにガザ地区全域をイスラエル軍の支配下に置き、現在のテロ組織による統治を解体する必要があると指摘する。軍が人道支援物資を確保し、検問所と配給センターを設置することで国際機関による秩序ある支援物資の配給が可能になるという。
ネタニヤフ氏は15日の安全保障閣議で、イスラム教のラマダン(断食月)期間中はラファへの地上侵攻は行わないと述べた。ラマダンが終わる4月9日までに休戦交渉が合意に至らなければ、イスラエル軍によるラファへの地上攻撃が開始される可能性がある。