パレスチナ自治区ヨルダン川西岸では、10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル南部への奇襲攻撃以来、パレスチナ人のハマスへの支持が急増している。イスラエルは、ガザ地区で軍事作戦を続ける一方で、西岸地区でも警戒を高め、ハマスなど武装勢力に対する取り締まりを強化した。(エルサレム・森田貴裕)
イスラエル軍は今月11日夜、武装勢力の拠点となっている西岸地区北部ジェニンで対テロ急襲作戦を開始した。軍は14日、60時間にわたる作戦で、指名手配中のテロ容疑者60人を逮捕し、武装パレスチナ人10人を殺害したと発表した。パレスチナ通信(WAFA)は、12人が死亡したと報じた。
イスラエル軍は、ここ数カ月間で、西岸地区北部の各地で短時間の対テロ急襲作戦を数十回行っている。軍によると、10月7日以来、これまでに西岸地区でハマス関係者1100人以上を含むテロ容疑者2000人以上が逮捕され、武装パレスチナ人約280人が死亡した。
イスラエルとハマスが交戦を続ける中、11月24日から始まった人道的戦闘休止の7日間で、ハマス側がガザ地区で拘束する人質約240人のうち外国人を含め計105人を解放。イスラエル側は、刑務所に収監している数千人のパレスチナ人囚人のうち、女性や未成年者計240人を釈放した。
中東のメディアでは、西岸地区のラマラや東エルサレムなどで、釈放された男性らを肩に担ぎ、多くのパレスチナ人が歓喜の声を上げ、緑色のハマスの旗を掲げて親ハマスのスローガンを唱える姿や、数年ぶりに帰宅した女性を家族や親戚らが抱きしめている様子が報じられた。
西岸地区とガザ地区で最近実施された世論調査では、10月7日以降、ガザ地区を実効支配するハマスの支持がパレスチナで急上昇していることが分かった。パレスチナのシンクタンク「パレスチナ政策調査センター」が13日に公表した調査結果によると、10月のハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃を「正しい」と支持した人が72%(西岸地区で82%、ガザ地区で57%)となった。
ガザ地区でイスラエル軍が続けている地上作戦について、53%が「ガザ地区を破壊し、住民を殺害し追放することが目的だ」と回答。イスラエルが戦争の目標に掲げているハマスの壊滅については、70%が失敗すると回答した。戦争が終結した後のガザ地区の統治については、72%(西岸地区で80%、ガザ地区で61%)が、ハマスが再びガザ地区を支配すると考えている。
イスラエルによる西岸のユダヤ人入植地拡大で、65%が2国家共存はもはや現実的ではないと考えており、69%が対イスラエル武装闘争の再開を支持している。
米国の中東ニュースサイト「メディアライン」によると、パレスチナ自治政府アッバス議長率いる主流派ファタハは、パレスチナの学生など若者の多くから、腐敗した無能な組織と見なされており、若者らはハマスを支持しているという。若者の父親の世代は対イスラエル穏健派のファタハを支持し、パレスチナの平和的抵抗と解放を信じていた。
しかし、現在のパレスチナ指導部は自分たちの権力を維持するだけで結果を得られず、若者世代は政治的解決への希望を失った。これまで中東和平プロセスを復活させるパートナーとされていたアッバス氏への支持率は急落し、平和的抵抗政策を取ってきた自治政府は、イスラエルによるパレスチナ占領の下請けと見なされている。
西岸地区では、昨年夏に北部ナブルスで新興武装勢力「ライオンの巣窟」も誕生し、パレスチナの若者の多くが新たなインティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)を望むなど、緊張が続いている。