天然ガス開発で協力か
イスラエルのヘルツォグ大統領は9日、トルコを公式訪問し、首都アンカラでエルドアン大統領と会談した。イスラエル大統領のトルコ訪問は2007年以来15年ぶりで、パレスチナ問題などをめぐり過去10年以上にわたって悪化していた両国の関係は、回復の兆しを見せ始めた。(エルサレム・森田貴裕)
古代のヘブライ語碑文返還も
元イスラエル外務省事務次官で、トルコ大使なども歴任したアロン・リエル氏は、イスラエル紙エルサレム・ポストで、「エルドアン大統領は1年以上にわたってイスラエルとの関係回復を求めており、特にここ数カ月は外交関係を強く求めてきた。しかし、イスラエルは応じてこなかった」と述べた。ユダヤ人国家としてのイスラエルへのトルコ大統領の激しい批判によって相互の敵意にまで及び、イスラエルに強い不信感を抱かせたという。
今回のイスラエル大統領のトルコ公式訪問は、ある事件がきっかけとなった。昨年11月、トルコを旅行中のイスラエル人夫婦が大統領官邸を撮影した後、スパイ容疑で拘束された。この夫婦の1週間後の釈放を確実にしたのは、7月に大統領に就任したばかりだったヘルツォグ氏とエルドアン氏との外交努力によるところが大きい。両氏はその後も電話での対話を重ね、エルドアン氏を信用し始めたヘルツォグ氏はイスラエル政権を説得し、トルコ公式訪問になったという。
エルドアン氏は9日、共同記者会見で「今回の歴史的な訪問は、両国間の転換点となり、将来の政治的対話の復活につながるだろう」との見解を表明。「トルコは、東地中海の天然ガス開発プロジェクトに協力する用意がある。近年の東地中海地域の発展は、エネルギー安全保障の重要性を改めて示している」と述べた上で、「2国間貿易の拡大を目指し、ドンメズ・エネルギー天然資源相がイスラエルを訪問する」と付け加えた。
ヘルツォグ氏は、共同記者会見で「両国の関係は、お互いを尊重する善意からの行動によって、共通する地域や世界的な課題によりよく立ち向かうことができる」と述べた。ヘルツォグ氏は訪問に先立ち、「トルコとの関係を回復させることは容易ではないが、中東地域全体に利益をもたらすだろう」と述べていた。
トルコとイスラエルはかつては緊密な協力関係にあったが、トルコがイスラエルと敵対するパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスや、エジプトがテロ組織とみなしているハマスの母体である「ムスリム同胞団」を支持し、イスラエルの政策を批判してきたことで、両国の関係は近年悪化していた。
今回のイスラエル大統領のトルコ訪問を機に、両国の関係の改善が政府高官レベルでも行われた。イスラエル当局者によると、トルコは、現在イスタンブール考古学博物館に保管されている2700年前の古代ヘブライ語の碑文をイスラエルに返還することで同意したという。イスラエルは長い間、エルサレム旧市街の南に広がる都市遺跡「ダビデの町」のヘゼキアのトンネルに関するシロアム碑文の返還を求めていた。イスラエル側は、現在イスラエル博物館に保管されているオスマン帝国時代のものとみられる古代の枝付き燭台をトルコに送ることを申し出たという。
トルコは2016年、イスラエルと和解しエネルギー協力について協議を行ったが、両国間の相互信頼の欠如から、具体的な成果は得られなかった。それ以来、イスラエルは、ギリシャやキプロスとの関係を強化し、トルコ不在の東地中海ガスフォーラム(EMGF)の枠組みの中で他の国々と協力関係にある。エルドアン氏は今年2月、イスラエルとトルコの両国の協力によってイスラエルの天然ガスを欧州へ送ることができると主張した。
エルサレムにあるノートルダム大学のミッシェル学部長は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、トルコの天然ガス供給量の45%はロシアからの輸入が占めており、ウクライナでの戦争が開始され、トルコにとってイスラエルとの天然ガス協力の必要性がさらに高まったと指摘する。ただ、最大の障害は、トルコが東地中海で長年対立してきたキプロスを説得することだという。