カザフ騒乱鎮圧のトカエフ氏 前大統領派排除し全権掌握

露は対NATOで結束を誇示
中央アジア・カザフスタンで2日に起きたデモは、死者164人に達する騒乱に発展した。トカエフ大統領は、ナザルバエフ前大統領の側近らによって起こされたクーデターだとして前大統領派の主要メンバーを逮捕し、権力を掌握した。また、ロシアのプーチン大統領は、カザフスタンに集団安全保障条約機構(CSTO)の平和維持軍を派遣したことで、CSTOの結束と、ロシアがその盟主であることを内外に誇示した形だ。
(モスクワ支局)

11日、ロシア国防省が公開した、カザフスタン南部アルマトイの発電所を警備する軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊(AFP時事)

騒乱の発端は、カスピ海にほど近い地方都市ジャナオゼンで起きた数百人規模のデモだった。今年1日から、液化ガス料金が2倍に値上げされたことが理由だ。5日朝、全土で大規模な暴動が発生し、トカエフ大統領は首都ヌルスルタンやアルマトイ、西部のマンギスタウ州で非常事態宣言を発令。さらに6日未明、旧ソ連のロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンで構成するCSTOに支援を要請した。

ロシア軍を中心とする2500人規模のCSTOの平和維持軍は6日にカザフスタン入りし、デモ隊・暴徒を制圧。プーチン大統領は、「数時間のうちに国家転覆の試みを防止した」とその活動を誇示した。

実は争乱の初期段階から「この争乱はトカエフ大統領自身が主導した」との見方が一部で流れていたが、それに疑念も持つ向きも多かった。というのは、トカエフ氏には、そのような実力はないと見られていたからだ。ナザルバエフ前大統領によって後継者に選ばれたトカエフ氏は元外交官で、国内エリート層に有力な支持基盤を持たず、また、ナザルバエフ氏は、国家の主要ポストに自らの側近を据え、退任後も強い影響力を維持している。

カザフスタンのトカエフ大統領(AFP時事)

しかし、争乱の結果、トカエフ氏は前大統領派を排除し、自らに権力を集中させることに成功した。トカエフ氏は5日、カザフスタンの治安機関のトップであるカリム・マシモフ国家安全保障委員会委員長を解任。そして6日、国家安全保障委員会は、国家反逆罪でマシモフ氏を逮捕した。

マシモフ氏は前政権下で首相を2回、大統領府長官を1回務めるなど、ナザルバエフ氏に極めて近い盟友として知られており、ナザルバエフ氏が退任後も治安機関を支配するためのキーパーソンだった。

ナザルバエフ前大統領(AFP時事)

トカエフ氏は騒乱について、外国に扇動されたテロリストによって引き起こされたと非難する。しかし、その一方で、この発言と矛盾するが、前大統領派によるクーデターによって失脚させられる可能性があったとも強調している。

ナザルバエフ氏は現在81歳で、重病で入院中だ。マシモフ氏の解任や逮捕で何らのコメントも出しておらず、すでに死亡したか、意識不明状態であるのでは、との臆測も呼んでいる。

一方、強い影響力を持つ民族主義政党「EIティレギ」のムラト・ムハメドジャノフ代表と、ヌルジャン・アリタエフ副代表が、この騒乱中に逮捕された。同党はカザフスタンをロシアの影響から脱却させ、独自に民族国家を強化するため活発に活動しており、国家安全保障委員会の強い支援を受けていたとされる。

クレムリンのペスコフ報道官は5日、「心配することはなく、カザフスタンの兄弟たちは自らそれを収拾するだろう」と述べていた。不思議なことにその時点で、事態の推移と、トカエフ大統領がCSTO部隊を受け入れることを知っていたのだろう。

ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟阻止に向け、軍事的圧力を加えるロシアは、米国およびNATOとの交渉を前にしていた。今回のCSTO平和維持軍派遣は、CSTOが旧ソ連地域の軍事同盟として機能しており、ロシアが盟主であることを誇示し得るいいタイミングだ。

ナザルバエフ前政権時代、カザフスタンはロシアとの関係も重視しながらも、米国、そして中国とのバランスを取った外交方針を推し進めた。それが今回、トカエフ大統領はナザルバエフ前大統領派のキーパーソンを追放し、さらにCSTO派遣を通じて、ロシアに大きな借りをつくった。この騒乱のもう一人の勝者はプーチン大統領である。

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