イスラエル首相、UAE初訪問 イラン、「中東に悪影響」と非難

アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで握手するムハンマド皇太子(右)とイスラエルのベネット首相=2021年12月13日(イスラエル府報道局提供)

イスラエルのベネット首相が昨年12月12日、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問、翌13日には同国の実権を握るアブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザイド皇太子と会談した。トランプ前大統領の仲介によるイスラエルとアラブの国交正常化合意(アブラハム合意)の下で、イスラエルとUAEの両国は2020年9月に関係を正常化、イスラエル首相のUAE公式訪問は史上初となった。(エルサレム・森田貴裕)

UAEはイランに外交的働き掛け

イスラエル紙「ハーレツ」によれば、首脳会談はアブダビにあるムハンマド皇太子の私邸で4時間にわたって行われ、うち約2時間半は両国首脳のみで行われたという。
イランの核開発問題やペルシャ湾岸地域でのタンカーなど石油施設への攻撃についても議論された。ただ、会談後の両首脳による共同声明では、イランについては言及せず、イスラエルがUAEの対イラン外交に配慮したかたちとなった。

UAEは近年、対イラン政策を外交的働き掛けに転じている。19年5月から9月にかけペルシャ湾岸地域で、イランやその代理勢力によるとみられるタンカーや石油施設への攻撃が相次いだ。一連の攻撃で、UAEはイランへの対立姿勢を変えた。UAEが対イラン政策で外交に転じたのは、米国が中東地域から手を引き、軍事介入を縮小していることも影響している。

ベネット氏は会談後、「貿易、研究開発、サイバーセキュリティー、健康、教育、航空などの分野で多くの協力協定が結ばれており、関係の継続と発展を楽しみにしている」と述べた。

イスラエルとUAEは、両国間の関係を拡大させるとして、さまざまな分野で60以上の覚書に署名した。両国は、2国間関係による経済発展の可能性が相互に有益であるだけでなく、イスラエルとの国交正常化を目指す他のアラブ諸国のモデルになると考えている。

UAE当局者は、イスラエルの洗練された経済は、石油時代の終わりに備える際、経済を多様化、デジタル化するのに役立つという。UAEは昨年、イスラエルの技術やその他の分野に投資するための100億㌦(約1兆1500億円)のファンドの創設について2国間協議を開始することを承認している。両国間貿易は、21年の最初の10カ月ですでに10倍の9億㌦近くに達しており、ベネット氏とムハンマド皇太子は、自由貿易協定に署名する可能性についても話し合ったという。

一方、イスラエルと敵対するイランの外務省スポークスマンは、イスラエル首相のUAE訪問について、中東地域の安全保障に悪影響を及ぼすと非難。「アラブ・イスラム諸国で70年以上にわたって戦争の原因となっている非合法政権の首相を迎えることは、UAEとアラブ諸国の人々の利益に反する」と批判した。

UAEはアブラハム合意に関して、イスラエルとの国交正常化がイランを無視したり、アブダビを中東地域の中心軸に置くことを意図したものではないことをイランに説明している。一部のUAE当局者によると、イランはUAEの正常化合意に反対はしていないという。

UAEのタフヌーン国家安全保障顧問は、昨年12月6日にイランを訪問。首都テヘランでライシ大統領らと会談し、両国の関係改善に向けて前進することで一致した。UAEは最近、イランだけでなくトルコなどにも関係改善に向けた外交的な働き掛けを行っている。

イスラエルとUAEは、アブラハム合意により中東地域に対イラン包囲網を構築するという共通の戦略目標を有していた。イスラエルは、イランの核兵器保有を阻止することを外交政策の最優先としている。イランの核問題について、バイデン米政権は対話を通じて解決する方針だが、イスラエルは軍事行動も辞さない構えを示している。イラン核合意への復帰に向けた間接協議は11月下旬に再開されたものの、交渉は難航し停滞を続けている。

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