1年以上空席だった駐韓米大使に強硬保守派として知られる韓国系の元米下院議員、ミッシェル・パク・スチール氏=韓国名、朴銀珠(70)=が任命されたことを巡り、韓国内では早くも歓迎と警戒に評価が割れている。中朝に融和的な李在明政権とは隔たりがあり、トランプ米大統領としては韓国が中朝寄りに傾かないよう牽制(けんせい)する狙いもありそうだ。(ソウル上田勇実)

スチール氏は韓国生まれの移民1世で、両親はもともと北朝鮮出身だったが、朝鮮戦争(1950~53年)直後に越境して韓国に定着した。75年に家族と共に渡米し、大学卒業後は結婚して平凡に暮らしていたというが、ロサンゼルス暴動事件(92年)を契機に共和党に入党。2020年にカリフォルニア州から出馬し下院議員に当選。当選後、韓国メディアのインタビューに「韓国語ができるので、韓国と米国の架け橋になりたい」と答えたという。
スチール氏は、中国と北朝鮮の専横政治や人権蹂躙(じゅうりん)に厳しい目を向けてきた。
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韓国メディアによると、昨年5月に在米韓国人のユーチューブ動画に出演した際、もし自分が駐韓大使に任命されたら最初に手掛けたい仕事として「中国が台湾に27年までに侵攻すると言ったので、インド太平洋問題を韓国と日本が主導すべきではないかと思う」と述べ、台湾有事の防衛に向けた在韓米軍の役割を強調した。
また20年には現地メディアの取材に「金正恩の相手をする最も重要なパートナーが(北朝鮮を)圧迫するどころか、北朝鮮に屈服している」と述べ、当時、南北首脳会談などで対北融和路線を敷いていた文在寅政権を批判した。
トランプ氏はスチール氏について「彼女の家族は共産主義から脱出した愛国者たち」と評価したことがあり、スチール氏自身も「中国共産党の脅威は党派を超えた問題であり、全ての米国人と民主主義が直面する一つの巨大な脅威だ」と述べている。
こうした経歴や発言に対し、韓国側の反応は両極端だ。
保守系市民団体「中国共産党アウト」は声明で「昨今の国際情勢や朝鮮半島情勢に鑑みて最適の人選」と歓迎し、国際自由主権総連帯など海外の韓国系団体も声明を出し、「韓米同盟がさらに固く結ばれることを期待する」と述べた。
一方、自主統一平和連帯など400余りの韓国左派系市民団体は先週、ソウルの米国大使館近くで記者会見を行い、「朝鮮半島を米国の対中圧迫と対北敵対視政策、韓米日の軍事協力強化に縛り付け、北東アジアの戦争前哨基地として悪用しようという露骨な宣言」と痛烈に批判。李政権に「アグレマン(大使受け入れ同意)を拒否しろ」と求めた。
そもそも第2次トランプ政権が、1年以上にわたり駐韓大使を派遣しなかったこと自体が「異常事態」(元政府系シンクタンク関係者)と言える。李氏が昨年6月に大統領に当選した後、初めて訪米した際も、米国側の李氏に対する冷遇ぶりは尋常ではなかった。トランプ氏が満を持してスチール氏を任命した背景は不明だが、李政権としては表向きは歓迎しても、内心穏やかではいられないとみられる。
対北融和路線の急先鋒(せんぽう)を担う鄭東泳・統一相は先月、国会での答弁で北朝鮮の核施設について既存の寧辺と降仙とは別に、公表されていなかった平安北道の亀城にもウラン濃縮施設があると明らかにしたが、これを巡り提供した情報を事前許可なく公開したとして米国側が不快感をあらわにし、米韓両国の一部情報共有がストップする事態を招いている。非公開情報を勝手に公表したことで北朝鮮が警戒し、施設を隠密に移転させる可能性があるとの指摘も出ている。
「自主派」と呼ばれる韓国の対北融和派にとり、スチール氏は手強い相手になりそうだ。





