
「尹錫悦前大統領の非常戒厳宣布は、李在明氏らが国政運営を麻痺(まひ)させようとした事実を国民に知らせ、覚醒させるためだった。単なる尹錫悦精神の継承ではなく、実質的な尹氏復権が必要だ」
今月4日、韓国国会前で「尹アゲイン」(尹氏復権)を求める集会に参加した首都圏在住の50代男性はこう述べた。男性は左派政治の地盤、全羅道(南西部)の出身だが、戒厳令やその後の弾劾など一連の混乱を目の当たりにし、政治に関心を抱くようになったという。
だが、独裁色を強める李氏を批判する保守系集会は一時の勢いを失い、参加者は減っている。保守陣営が「尹アゲイン」を巡り分裂しているためだ。
政府系シンクタンクの元トップは、韓国保守が抱えるジレンマをこう指摘する。
「一部の強硬保守や若者たちは尹氏を再び指導者に迎え入れるべきだと訴えるが、検事時代からの上から目線、知人や妻の人事介入、カッとなって自制心を失い戒厳令に突き進んだ性格など指導者としての問題も浮き彫りになり、復権はあり得ないという主張も多い。尹アゲインを巡り保守が割れている」
そして保守にはもう一つ超えるべき大きな壁があるという。保守系最大野党「国民の力」の内部対立だ。
「尹アゲイン派を味方につけた張東赫代表と、尹氏弾劾やむなしと主張した韓東勲・前代表の溝は埋めがたい。事実上、張代表に除名された韓氏を尹アゲイン派は拒否するが、保守系大手紙は中道を抱き込むには韓氏とそのグループを受け入れるべきだと主張する。こうした路線の違いが団結を阻み、支持率低迷につながっている」(元トップ)
保守分裂の中、李氏は国会を通過した「司法掌握3法」(韓国紙・朝鮮日報)を国務会議で議決させた。
判決が不服な場合、判事を「法を歪曲(わいきょく)した」罪で処罰できる「法歪曲罪新設法」、大法院(最高裁)の確定判決が不服な場合、違憲審査を許容する、事実上の4審制に道を開く「裁判訴願法」、そして大法院の判事14人を大統領が任命する12人を加えた26人に増やす「大法院増員法」だ。
宅地開発を舞台に巨額の不正利益を捻出した疑惑(大庄洞事件)など、李氏は大統領就任で中断している訴訟を幾つも抱える。それらが退任後に再開された時、「自分に不利益を生じさせないのが『司法掌握3法』に隠された最大の目的」(元ソウル中央地裁部長判事)だ。
すでに立法・行政を掌握していた李氏が、ついに司法まで影響下に置いた。「判事は萎縮し、司法の政治的中立が損なわれ、民主主義の基本的枠組みである三権分立が崩壊しつつある」(同元部長判事)事態に至った。だが、韓国社会はウソのように静かだ。
この現状に、ある国民の力関係者は「今後しばらく保守への政権交代は難しいだろう」と嘆く。
「リベラル色が濃い30代後半から60代半ばまでの人口約1000万人余りが全有権者に占める割合は3分の1に迫るという人口構造から考えても、李政権がよほど大きな失敗、例えば経済政策のミスリードによる株価暴落など国民が失政を肌で感じる事態が起きない限り、共に民主党政権は続くのではないか」(同関係者)
保守が劣勢を挽回するのに不可欠な政治リーダーの不在を嘆く声もある。別の国民の力関係者はこう指摘する。
「保守本流と呼ばれた李会昌氏や朴槿恵氏など、求心力のある政治家が見当たらず、保守は結集できない。今の国民の力は検事や判事など法律家出身が多く、民主化闘争や学生運動などを経てのし上がった与党議員の闘争力に負けてしまう」
「左派の優れた工作テクニックと保守の優雅な怠惰」(『李在明の反乱』より)が、韓国を危機に追い込もうとしている。
(ソウル上田勇実、写真も)







