トップ国際朝鮮半島韓国・李政権 有事軍指揮権の転換急ぐ 米文書、「核の傘」明記せず

韓国・李政権 有事軍指揮権の転換急ぐ 米文書、「核の傘」明記せず

北朝鮮との南北軍事境界線にある板門店の共同警備区域(JSA)で、握手を交わす韓国の安圭伯国防相(右)とヘグセス米国防長官=2025年11月3日(EPA時事)
北朝鮮との南北軍事境界線にある板門店の共同警備区域(JSA)で、握手を交わす韓国の安圭伯国防相(右)とヘグセス米国防長官=2025年11月3日(EPA時事)

 朝鮮半島有事の際に韓国軍の大部分と米軍を統率する最高指揮官をこれまでの米軍側から韓国軍側に移譲させる「戦時作戦統制権の転換」が現実味を帯び始めている。最近、トランプ米政権が発表した安保関連2文書には韓国に対する「拡大抑止」(核の傘)の約束が明記されず、韓国に対北抑止の主導的役割を期待しているだけに、転換を急いでいるようだ。(ソウル上田勇実)

 韓国の安圭伯国防相は先週、戦時作戦統制権の転換推進評価会議を開き、「今年を回復(転換)元年としなければならない」と述べ、4月までにそのロードマップを作成し、10月の運用能力点検を経て転換時期を定める考えを示した。

 これまで統制権を巡る用語は「転換」や「移譲」が使われてきた。わざわざ「回復」としたのは、昨年10月の「国軍の日」記念式で李在明大統領が初めてこの言葉を使ったためとみられる。李氏はかねて「自主国防」を強調し、「米に牛耳られてきた軍事主権を取り戻す」という発想をにじませていた。

 李氏自身、「任期内の回復」を目指しているが、そこに弾みをつけたのが、米国が発表した安保関連文書だ。

 昨年12月に出された、米国の最上位戦略文書とされる「国家安全保障戦略」には、韓国が期待し、これまで盛り込まれてきた米韓連合による防衛や拡大抑止の強化が抜け落ちていた。先月23日に国防総省が発表した「国家防衛戦略」にも該当する表現はない。

 2文書には、米本土防衛をはじめとする米第一主義や同盟国の国防費負担増など、トランプ氏個人の意向が色濃く反映され、韓国としては朝鮮半島有事に米国を頼ろうとする心理にブレーキがかかる状況になりつつある。「回復」にこだわる李政権にとっては「渡りに船」だ。

 だが、転換を問題視する専門家は少なくない。

 北朝鮮による再南侵などで引き起こされる朝鮮半島有事では、対スパイ作戦の統制権などを除く大部分の任務に携わる韓国軍が米韓連合軍司令部の指揮下に入り、同司令部をまとめる連合軍司令官が両国軍の指揮を執る。この指揮権が統制権だ。

 仮に韓国軍に統制権が転換された場合、有事に米軍が自動介入する担保がなくなり、抑止効果が大幅に減退することが懸念される。

 また連合軍司令官は在韓米軍司令官と国連軍司令部司令官を兼任し、戦争勃発時には米政府に兵力増員や軍事装備搬入を要求できるほか、朝鮮戦争参戦国の再派遣や在日国連司令部の後方基地を活用できる。しかし、統制権が転換されれば、これらの支援に米国がどこまで応じるか不透明で、戦闘能力の低下も危ぶまれる。

 韓国軍事問題研究院(国防省傘下)の金泰宇・核安保研究室長は「米国が対北朝鮮や対中国の抑止で韓国に十分なサポートを約束しない印象を与えたことで、中露朝3カ国は軍事挑発のチャンスと捉える可能性がある。李政権が転換を急げば、安保の空白を生じさせかねない」と警鐘を鳴らす。

 統制権転換の議論が本格化したのは、李氏と同様に「自主国防」路線を掲げた盧武鉉政権時。それ以降、各歴代政権が米国との間で計4回の関連合意に至っている。保守系の李明博政権や朴槿恵政権では転換を延期させる微調整だったが、革新系の盧武鉉・文在寅両政権では転換履行に向けたロードマップ作りに踏み出した。合意に至ったものの、北朝鮮の核脅威増大や大統領の弾劾・罷免、新型コロナウイルスの感染拡大などで、いずれも合意履行には至っていない。

 李在明政権が取り組む統制権「回復」は、文政権時の合意を土台にするとみられるが、転換後の米韓連合軍司令部の在り方を巡り曖昧な部分が残っているといわれる。仮に一部で指摘されるような同司令部の「解体」が現実のものとなれば、抑止力への悪影響は必至だ。

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