
一昨年末の「非常戒厳」宣布を理由に弾劾・罷免され、内乱罪などの容疑で起訴・収監された尹錫悦前大統領の各種裁判で、特別検察官(高位公職者の不正・違法行為を独自に捜査する臨時の検察官)が死刑を求刑するなど、司法を舞台とした尹氏“断罪”がいよいよ始まった。だが、保守派を中心に内乱罪成立を疑問視する声も根強く、判決次第では救命運動が起こる可能性もありそうだ。(ソウル上田勇実)
尹氏の内乱罪などを捜査中の特別検察官は13日、「非常戒厳」宣布とそれに伴う国会への軍出動などについて「大統領の単純な職権乱用ではなく、長期執権のために憲法が定めた国家運営構造を無力化し、軍事力と警察力によって国家権力と統治構造を再編しようとした内乱行為」と指摘した。
その上で、1980年に市民の民主化運動を軍が鎮圧して双方に犠牲者が出た光州事件を引き合いに出し、当時政権中枢にいた「全斗煥・盧泰愚勢力に対する断罪よりもっと厳しく断罪」すべきだと主張。「反省しない被告人」には「重い刑を定めるべきだ」として、死刑を求刑した。
これに対し尹氏は最終陳述で、戒厳令の目的は内乱罪の根拠となる「暴動や国家紊乱(びんらん)とは全く異なる」と反論し、検察の主張を「妄想と小説」と批判した。
尹氏は「反国家勢力と連携して国会の権限を乱用し、国益を損ねる法律を繰り返し上程して大統領の拒否権を誘導し、国論二分をもたらした」共に民主党(当時最大野党)にこそ原因があり、「憲政崩壊と国政麻痺(まひ)を防ごうとした重い責任感」から、国民に「亡国的廃悪を監視・警戒してもらおうと訴えた」のが戒厳令だったと述べた。
尹氏は、ある放送関係者が「全国、全世界にこれから(戒厳令が)始まると知らせ、2、3時間後に国会が中止しろと言うので中止する内乱を見たことがあるか? 弾のない空の銃を持って行う内乱を見たことがあるか?」と述べたと紹介し、この言葉が、それでも「内乱」と決め付ける李在明大統領や与党による「(戒厳令後の)1年間、この国を吹き荒れた狂風の虚像」を象徴的に物語っているとも述べた。
そもそも「内乱罪」(韓国刑法第87条)とは、「領土の全部または一部で国家権力を排除したり、憲法を紊乱させる目的で暴動を起こした者」に当てはまる。だが、尹氏の戒厳令が内乱罪に該当すると立証するのは、当初から専門家の間でも「無理がある」との見方が少なくなかった。
来月にも判決が下りる見通しだが、「内乱清算」を内政の最優先課題とする李政権の下で、果たしてどこまで公平な判断が下されるのか不透明だ。
また昨年1月、高位公職者犯罪捜査庁による「内乱首謀者容疑」の逮捕令状執行を尹氏が妨害したという「特殊公務執行妨害罪」の容疑などを巡る裁判で、ソウル中央地裁は16日、一審判決で懲役5年の有罪を言い渡した。尹氏を巡る裁判では初の判決で、これも「内乱清算」の大号令に沿うような形となった。
判決について与党は「死刑(判決)まで無寛容の原則で処罰すべき」(鄭清来代表)との見解を示し、革新系野党も「国民感情から見て極めて不十分な量刑」(祖国革新党)、「内乱断罪の始まりだ」(進歩党)などとして、尹氏“断罪”の継続を求めた。公式論評を出さなかった保守系最大野党「国民の力」とは対照的だ。
先の日韓首脳会談をはじめ外交で「善良で話が通じる人」をアピールする李氏だが、ひとたび内政に目を向ければ「内乱清算」の嵐が吹き荒れ、尹氏“断罪”はその一丁目一番地だ。保守系政党代表で韓国政治に詳しい高永宙弁護士は近著『李在明の反乱』の中で、「尹錫悦による内乱はなく、むしろ犯罪者(李氏)の反乱があっただけだ。この巨大な犯罪者一人のせいで韓国が崩壊しようとしている」と警鐘を鳴らしている。






