北朝鮮が2023年末の労働党全員会議で南北はもはや統一の対象ではなく、朝鮮半島には「敵対的2国家」が存在し、「韓国は主敵」であると規定したことについて、当初、韓国左翼は戸惑って沈黙し、保守派は反応が鈍かった。誰もが北朝鮮の真意、狙いにピンときていなかったからである。
北朝鮮の外交官をしていて2013年に韓国に亡命した韓鎭明(ハンジンミョン)元駐ベトナム北朝鮮大使館3等書記官が、金正恩総書記の「敵対的2国家論」について月刊中央(1月号)で解説している。
北朝鮮の狙いは対米交渉、国交正常化である。そのためには、①「核保有国」として認められ②中国、ロシアとは名分だけの連帯を越えた戦略的両国関係を築き③韓国を交渉の場から排除することで、この「2国家論」宣言から2年間、北朝鮮はその条件を整えてきたことを韓氏はまとめている。
まずウクライナ戦争を契機にロシアとの関係は「単純な軍事交流を超えて軍需、人力、政治全般を合わせる構造的密着に急変」させた。北朝鮮は「戦時生産・普及体系の一部として編入され」たことで、その見返りとして「食糧・エネルギー・精密部品・軍事技術など実質的な補償」を確保した。これにより「1990年代の『苦難の行軍』以後消えた平壌の外交的実利を取り戻した」のである。
一方、中国では昨年9月3日、天安門広場で行われた「抗日戦80周年」行事で習近平中国国家主席、ウラジーミル・プーチン露大統領と並んで金正恩総書記は楼閣に上った。中国はもはや北朝鮮を「管理の対象」から「戦略的価値」として認めた象徴的場面だった。
北朝鮮が国連や国際社会からの経済制裁にもかかわらず、「核保有国」になり、ロシアには軍需、人力を提供できる国になり、天安門望楼に習、プーチン、金の3人で「長寿」に関する冗談を言い合いながら並ぶまでになった。
このことが韓国に及ぼす影響について韓氏が説明する。「北朝鮮は南北関係と連動させないために『2国家論』を活用する。核問題を南北間の『民族問題』でなく、米朝間の『国家対国家問題』に再定義することで、韓国の介入を大本から遮断しようとする戦略」だ。
その金総書記の見込みは当たる。2025年1月20日、米大統領再選後のドナルド・トランプ氏は北朝鮮を「事実上の核保有国」と呼んだ。「名実」の「名」だけは確かなものにしたわけだ。
これで条件は揃(そろ)った。朝鮮半島(北朝鮮)の核問題は「非核化」ではなく「管理」ないし「(核)軍縮」の対象となったのである。これにより「韓国が北朝鮮核問題で発言権を持つことは非常に難しい」状況になったと韓氏は指摘する。「韓国の外交的地位は弱まり、北朝鮮は韓国を(核)交渉構図から除外」することにまんまと成功したのだ。
次に金正恩総書記が進めるのはトランプ大統領との核交渉と制裁緩和、その先の関係正常化の交渉だが、韓氏はこれを米側から提案するように仕向けていくだろうと予測する。金総書記の頭には「ハノイ交渉の失敗」がある。米側から核軍縮交渉を言い出す状況をつくっていくと韓氏は見ているのだ。
年明けにも行ったミサイル発射実験、これに核弾頭を搭載できるようになれば、米側は交渉を探ってくるだろう。しかし、その間、北東アジアには核の脅威が日常化することになる。交渉から排除され「主敵」とされた韓国としては、日本との安全保障協力に出ざるを得ない。トランプ政権が昨年12月に打ち出した国家安保戦略書(NSS)で「西半球」に拘(こだわ)り、東アジアは自身の手で防衛せよとばかりに日韓に国防費の増額を求めてきている。同じ境遇の日本との協力なしには韓国は目前の核脅威に対応することはできない。
元北朝鮮外交官は金正恩総書記の「2国家論」の狙いを以上のように解説したが、韓国民の目にはどう映っているのだろうか。李在明政権の鄭東泳統一相は2国家論を「平和的2国家論」に転換すべきだと主張している。魏聖洛国家安全保障室長は「認めない」と否定し、政権内で深刻な不一致を見せている。李大統領はこれを敢(あ)えて調整することなく放置しているように見える。そうしているうちに北朝鮮が真の「核保有国」になる日が迫っている。






