
韓国の李在明政権が北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」の閲覧を国民に許容し、与党が北朝鮮サイトへのアクセスを可能にする関連法改正を推進するなど、これまで北朝鮮が韓国に対して行ってきた宣伝扇動に門戸開放をするかのごとき動きが出始めている。保守派は国民への悪影響を懸念し、警戒感を露(あら)わにしている。(ソウル上田勇実)
これまで労働新聞は韓国で「特殊資料」に指定され、安保関連省庁や研究機関、メディアなどに属するごく限られた人たちだけに閲覧が許可されてきた。ところが先月、李大統領が統一省から業務報告を受けた際、「国民が北朝鮮の宣伝戦に巻き込まれアカ(共産主義者)になるのではというのは、国民の意識レベルをあまりに見下すもの」とし、同紙閲覧の制約をなくすよう促した。
これを受け統一省は先月30日、同紙を「特殊資料」から「一般資料」に変更し、国立中央図書館や統一省など全国約180カ所の特殊資料取り扱い機関を訪問するだけで、誰でも身分証提示など一切の手続きを経ずに閲覧でき、そのコピーを外部に持ち出せるようになった。
同紙は北朝鮮が国内向けに発行する党機関紙で、金正恩総書記の“お言葉”や日本をはじめ西側諸国に対する敵対的論調、核・ミサイルなど軍事力の強化路線を正当化する文章などがちりばめられている。
刺激的で面白い情報があふれ返る韓国社会で、日常生活に追われながら極めてとっつきにくい同紙に関心を示し、熟読する人が果たしてどれだけいるかという疑問は残る。だが、北朝鮮の対南心理戦の一角に無防備になりかねず、看過できない側面はありそうだ。
韓国政府が国民に同紙の自由閲覧を許可するのは「北朝鮮による共産主義理念の宣伝扇動を許容する」(元公安検事)ばかりか、「北朝鮮体制の鼓舞・讃揚や宣伝・同調を処罰する国家保安法を無力化させることを韓国政府が主導する格好」(柳東烈・元韓国警察庁公安問題研究所研究官)となる。
さらに問題は、同紙の閲覧解禁にとどまらない。与党「共に民主党」は先月、「情報通信網利用促進および情報保護などに関する法律一部改正案」を発議した。これは現在60余りある北朝鮮サイトへの接続・閲覧・流通を禁止している法律を改正し、接続・閲覧については自由にできるようにするというものだ。
北朝鮮はすでに韓国との関係を「敵対的2国家」と規定したため、「自国サイトへの韓国人訪問増を歓迎して北朝鮮美化、韓国卑下の宣伝コンテンツを以前にも増して大量に流すかは不透明」(保守系市民団体関係者)だ。しかし、保守系最大野党「国民の力」は「韓米同盟強化や北朝鮮制裁という国際的潮流からみて、国益にどうプラスになるのか理解できない」(報道官)と批判している。
李政権と与党は、北朝鮮による宣伝扇動の道具とされる党機関紙やサイトへのアクセス規制を緩める一方、北朝鮮の軍人や一般住民に独裁国・北朝鮮の実態を知らせるビラやUSBメモリーなどを大型風船に括(くく)り付けて飛ばす、対北ビラ散布の取り締まりには躍起だ。
与党は、文在寅政権下で成立した対北ビラ禁止法が後に違憲判断を下されたことを受け、今度は警察官が対北ビラ散布を直接制止できる「警察官職務執行法改正案」を先月発議。軍事境界線付近など飛行禁止区域での風船飛ばしを全面禁止する航空法改正も進めている。
北朝鮮から雪崩のごとく宣伝扇動用の情報を韓国に流入させ、韓国に親北世論が広まるリスクが増える一方、北朝鮮住民に真実を伝え、民主化に向けて覚醒させる目的の韓国発北朝鮮行きの情報を遮断することが李政権の真意だとすれば、韓国は「自由民主主義体制の秩序維持が危うくなる」(元韓国情報機関幹部)と言わざるを得ない。






